第十四話 魔導師様、据え膳のお味はいかが?
「おや、魔導師様。お湯加減はいかがでしたか?」
先ほど、咲季を露天風呂まで案内してきた年配の女性が声をかけてきた。
「え? ええ。けっこうなお風呂で、すっかり疲れも取れまして、オホホ……」
部屋着に着替えたのち、風呂場を出た咲季は、気を失ってぐったりしたままのカッシュを小脇に抱えていた。その様子を見た女性が、怪訝そうな目で見つめている。
「ああ、この
「まあまあ、それはそれは。あちらにお部屋を用意いたしましたので、どうぞごゆっくりお休みください」
そう言うとその女性は、咲季とカッシュを村長の家の
「……あんなあ、こっちは
「
ようやく目を覚ましたカッシュに、咲季は声をひそめつつ詰め寄った。
「なんや」
「
「アレってなんや」
「お、男とヤって……って、言わせないでよ!」
顔を真っ赤にして、涙目になりながら困惑の表情を見せる咲季。カッシュは、首筋を前肢でさすりながら言った。
「ワイも
「欲望って、そんなぁ……んん〜〜〜〜ん!」
カッシュの言葉に、咲季は羽根枕に顔をうずめて
そのとき、ノックの音が聞こえた。
「あ、あのう、サキエル様、カッシュ様! お食事の用意ができましたので、こちらへお越しくださいますでしょうか?」
それは、例の村人
「あら、あなた。ビトーさん……だったかしら?」
「は、はい! サキエル様。先ほどはどうも……」
扉にしなだれかかり、潤んだ瞳でビトーを見つめる咲季。羽織っていた部屋着の胸元から、温泉の香りがほのかに立ちのぼっている。さらに、簡単にまとめた艶のある洗い髪が、なんともいえない色気を醸し出していた。
「お食事……?」
「ええ。まあ、田舎の村ですからたいしたものはありませんが、村長もぜひお二人に召し上がっていただけれ、ば、と……」
そう言いながら、ビトーは思わず咲季の胸の谷間に釘付けになった。その視線に気がついた咲季は、少し意地悪そうに軽く微笑んだ。
「ふふっ……ステキね。こんな
「は? ふ、フルコースっていうのは……」
いかにも純朴なモブ顔然としたビトーの、その耳元に熱い吐息がかかるほどに唇を近づけ、咲季は
「だって……ここに
「サ、サキエル様? ……わわっ!」
扉の奥からビトーの袖口を引っ
「あの、な、なにを……!」
「言ったでしょ。
仰向けになったビトーの上に馬乗りになると、咲季は彼のその襟元に手を滑らせた。農夫であるビトーのシャツの下から、日頃の農作業で培われた筋肉質の胸板があらわになった。咲季はまとっていた部屋着に手をかけ、桃色に上気した肌をゆっくりと晒してゆく。
「い、いけません、サキエル様……ぼ、ぼく……」
窓から差し込む月明かりに照らされた、妖艶な肢体を目の当たりにしたビトー。下半身に熱い体温を感じながら、緊張と興奮で動くことすらままならないその男を、咲季は舌舐めずりしながら見下ろしている。そして彼女の背後からは、魔族の証である
「うふふっ、
コンコン!
「サキエル様?」
あらためてドアを叩く音とビトーの声に、ようやく咲季は我に返った。先ほどのノックからこれまでの一部始終は、まぎれもなく彼女自身の妄想である。
「……は、はいっ! 承知しました。すぐに参りますので」
「そうですか。お待ちしています」
咲季があわてて返事したのち、ビトーは安心した様子で去っていった。その気配をドア越しに察すると、彼女は深く息をついた。
「どないしたんや、サキ?」
心配そうに声をかけるカッシュに、咲季は大きく首を振りながら両腕を交差させてバッテンを示した。
「ぜっ! たい! ムリ!」
続く
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