第十話 鬼ヤバすぎる魔導師、ここに参上!
果てしなく続くと思われた咲季の
「さて、火も収まったみたいだし、そろそろ見に行ってみる? カッシュ」
「うう、気が進まんなあ……」
崖下をのぞき込もうと、慎重に歩みを進める咲季。
「もしもやで? 目の前に
カッシュは、両前肢の肉球で自分の目を覆うようにしながら横を向いた。咲季はその仕草を見て、正直はじめてこの
「……うわー、ホントに
「マジか! もー言うたやんほらー!」
崖の下の様子を確認する咲季に、悲鳴のような声を上げるカッシュ。
「でもアレ、どうやら人間じゃないみたいよ?」
「なんやて?」
そう、
数十分かかって、二人はようやく崖のふもとまで下りてきた。ちょうど、草野球のグラウンドにでもしたくなるような広さの原っぱに、オークとゴブリンからなる連合軍の死骸がいたるところに転がっていた。
生きたまま全身を焼かれた彼らは、みな苦悶と絶望の表情をむき出しにしていた。そのおぞましく焼け焦げた肉塊と、鼻を突くような強烈な臭気は、まさに地獄と呼ぶにふさわしい惨状であった。
「いったいどういうことなの、これ? 武装したオークとかゴブリンだらけじゃない」
「せやな。
吐き気がこみ上げてくるような死臭に耐えつつ、気味の悪いバケモノたちの死骸を踏まないようにしながら、咲季とカッシュはこの一帯を見て回った。
「うわっ、なにこれ! すごく
咲季は、ひときわ巨大な
「ああ、どうやらこいつがオークの
「はあ……。すごいわね」
そのときである。咲季は、数メートル離れた木の陰から自分たちのことをこっそりうかがっている、何者かからの視線に気がついた。
「ねえカッシュ、あっちのほうに誰かいるみたいよ?」
「ホンマや! こりゃヤバいでサキ、ワイらの悪事が露見するまえに、一刻も早く目撃者の口をふさぐんや!」
アワアワとあわてるカッシュに、咲季は冷静なツッコミを入れた。
「なに言ってんのよ。べつに私たち、悪いことしてないでしょ? 私が魔法で倒したのは
「んー、それもそうやな(まあ、偶然やけど)。……おーい、そこの
「……は、はいぃ!」
木陰から姿を現したその若い男は、まさか自分が声をかけられるとは思ってもみなかった(それも、猫から)らしく、かなり動揺していた。見ればどこにでもいそうな風貌で、いかにも「村人
「ジブン、そこでなにしとったんや? えーっと……」
「あ、ぼく、ビトーといいます。す、すぐその先の丘を越えたとこにある、あの、小さな村の者でして、はい」
言葉をつっかえつっかえしながら、ビトーと名乗った青年は話しはじめた。どうやら、彼の村の者たちは
「そ、そしたら、急に空から火の玉がいくつも降ってきて、あっという間に
ビトーは目の前で起こった一連の出来事を、なんとか消化するのがやっとという状態であった。
「あれ、あなたたちの魔法なんですよね? それであの……あ、あなたたちはいったい……?」
「あー、ワイらはやなあ——」
この無垢な村人
「ウガアアアアァァァァ!」
赤黒く焼け焦げ、四肢がほとんど崩れかけた
「うわああああ!」
悲鳴を上げたビトーをかばうようにして、咲季は反射的にオークの
「マドゥル!」
咲季のかけ声に呼応するかのように、マドラガダラの
「ぬ? ぬぅ〜う!」
ほとんど死にかけているオークの
「……おいおい、ムチャしよんなあ」
知らぬ間に、近くの岩陰に身を隠していたカッシュが、あきれたような声を上げた。咲季は、マドラガダラの
「——サキエル。私はエルフの
続く
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