第四話 これマジ? 美しすぎる転生ガール
コホン、と
「そもそもやなあ、誇り高きワイらの種族『
「あー、そういうのいいから。要点だけ正確かつ簡潔に」
せっかちな
「とにかく、ワイはリディメンション……いわゆる次元転移魔法を使えるさかいな。たまーに、あっちの世界に行ってんねん」
「なにしに?」
「そらぁもちろん、
「
「せや。なんたって、
「ふーん」
「まずは、あんみつ! 銀座の若松に神田の竹むら、浅草の梅園と松竹梅三連チャンいってもうたわ。それから満願堂の芋きん、大角玉屋のいちご大福にうさぎやのどら焼きもはずせへんやろ! このあたりのデパ地下にも、ええ店がぎょうさん揃っとるしなあ」
その力説ぶりから、カッシュがかなりの甘党であることがよくわかる。たしかに、中世ヨーロッパ風味の世界観を持つ『ドラゴンファンタジスタ2』の世界において、和菓子はそうそう手に入りそうもない。
とは言え、見た目はただのトラ猫の分際で、いったいどうやって名だたる
「もうわかったから、そろそろ話を進めて」
「まあそんなわけで、前の日にちょっと食いすぎてな。うっかり寝坊してもうてん。ほんで、
その店のことなら、咲季も噂を聞いたことがある。名物である幻の羊羹を目当てに、早朝から多くの客が列をなしているらしい。彼女は、店頭でおばあちゃんたちと一緒に行儀よく並んでいる
「それで、あの交差点にいたってわけ?」
「せやで。あんときトラックの運転手、寝ぼけとったやろ! メーワクなやっちゃでホンマ」
寝ぼけていたのはお互い様のような気がしたが、咲季はだまって聞いていた。
「そしたらアンタや、姉ちゃん。ワイが
「……!」
「ワイは、あわてて次元転移魔法を使ったんや。それで間一髪、なんとか無事にこの『ドラファン2』の世界に戻ってきたっちゅーわけやな」
「それじゃ、あのとき私がカッシュを抱きかかえたから……」
「魔法に巻き込んでしもたんや。それはまあ、スマンかった」
カッシュの説明に、咲季はいちおう納得の表情を見せた。自分とカッシュがキズひとつ負わなかったのは、結果的に喜ぶべきことには違いない。
「……まあ、いろいろとツッコミどころはあるけど、とりあえず経緯と事情はわかった。で?」
「で? って、なんや」
「なんや、じゃないでしょ。その次元転移魔法とやらで、さっさと私を元の世界に戻しなさいよ」
「アカン」
「えっ?」
「そりゃあ無理や」
「な、なんでよ!」
「それも、聞かんほうがええんちゃうかなー」
咲季は、チッと小さく舌打ちをすると、ふたたびカッシュの首根っこを掴み、右手の握り拳・別名「わからせハンマー」の振り下ろし先の照準をその頭にロックオンした。
「ああもう、わかったわかった! ちゃんと言うから、離せっちゅーねん!」
咲季の手から解き放たれ、床に直立したカッシュは、無言のままゆっくりと両方の前肢を自分の両耳付近にあてた。そのポーズはまるで、咲季自身にもそうしろと
「……?」
意味もわからず、カッシュと同じように両手を顔の横へと近づける咲季。そのとき、彼女の長い黒髪がハラリと揺れ、なんとも奇妙な肌触りがその指に感じられた。
「こ……」
そのときはじめて咲季は、美しく磨かれた大理石のようなこの神殿の壁面に、鏡写しになった自分の顔を見た。その両耳は長く尖り、横に大きく突き出している。それは彼女にとって見慣れた、それなのに現実には一度も見たことのない光景だった。
「これって……」
咲季は、ほんの数分前に発したときをさらに上回る音量の叫び声を上げた。
「私、エルフになってるじゃない!」
「……まあ、そういうこっちゃ」
「どういうことよ! これ、エルフの耳でしょ?」
自分の姿を目の当たりにして動揺を隠せない咲季に対し、カッシュはため息まじりに横を向いた。
「んー、まあエルフなんやろなあ。この
と、身も蓋もないことを言うカッシュ。どうやら彼自身も、この事態をまったく想定していなかったようである。
「とにかくサキ、ジブンはこの
「転生……エルフに?」
「こっからの話は、もうちょいと
そう言ってカッシュは、口元を歪めて笑った。
続く
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