第4話 盲目的オンリー

彼女が出ていった部屋はどこかガランとしている。

アクセサリーも歯ブラシも、どこにも彼女のものはなかった。

いつのまにまとめていたのか。随分前から出ていくつもりだったのだろうか。

こんなところはしっかりしてるのだ、彼女は。

そんなことは知りたくなかった。

きっと彼女はあそこにいる。LINEの相手のところ。

男相手かどうかなんて、彼女の顔を見ればわかる。

僕と出会ったときにもしていたあの表情。恋の表情。

LINEを打ち返したあと、少し口角があがる彼女が嫌いだった。

そんなところまで気づいてしまうほど、彼女を疑っていた自分も嫌だった。

雨はいつのまにか止み、窓から日差しが差し込む。

いつのまにか朝になっていた。

そういえば、前にもこんなふうに朝を迎えたことがある。

あそこに座って、二人で一緒にゲームをして、気づいたら朝が明けていて。

こんな状態でも、こんなことをされても、それでもあの日常が懐かしく思えるなんて。

僕は滑稽なほど、あの日常が大切で、馬鹿馬鹿しいほど彼女にしがみついている。落ちない汚れみたいにべったりと。

秒針が8を指差す。もうすぐ彼女が起きる時間だ。

トークの一番上をタップして、右上の電話マークを押す。

一向に電話に出ない彼女を不思議に思う。

どんなに酔っても、どんなに夜更かししても、いつもこの時間に起きる彼女が出ないなんて。

避けられてる?そりゃ、そうか。

荷物まとめて出たんだから、あたりまえだ。

何度目かの発信、もうダメかと思ったとき、電話がつながった音がした。

「「あ」」

声が重なる。知らない男の人の声。

反射で電話を切る。

心臓の鼓動がやけにはっきり聞こえる。

「だれ、、、」

こぼれ落ちた言葉はなんだか頼りなかった。


僕はまだここから動けない。

彼女がいつ戻ってくるかもわからないから。

彼女のための枕はそのままに、抱いて今日も眠りにつく。

いつかはまた昔のように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真っ赤な嘘 コトリノトリ @gunjyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ