第2話 どうせ飽きられる演出

彼女と出会ったのは大学の入学式。

偶然隣に座っていた彼女が何故か頭から離れなくて。

オリエンテーションで彼女の姿を見つけ、同じ学部だということに気づく。

どうやら学科や専攻までも同じらしい。

偶然の出会い、同じ学部、同じ学科、専攻、人はここまで偶然が重なると往々にして錯覚をしてしまうものだ。

そう、僕は恋をしていた。彼女に。

付き合うまでにさほど時間はかからなかった。あの空気感、雰囲気にみんなが浮かれていたから。

僕が一人暮らししてる彼女が転がり込んできて、彼女の私物が家にどんどん増えてきて。

こんな風に、なし崩し的に、結婚するだろうななんて思っていた。

そんなことなかったけど。

異変を感じたのはいつだったか。

日常に紛れ込んでいてうまく思い出せない。

彼女がスマホをいじる時間が増えたとき?

LINEの通知が急になくなったとき?

彼女のアクセサリーが少しずつ減っていったとき?

それとも、触れたら避けられたとき?

きっとどれもが彼女と僕の溝を表していて。埋めることなんてできなくて。

ても、僕はその決定的な一言を言うことはできなかった。

もうこの日常に浸ってしまって、壊すことなんてできなかった。

耳も目も全部ふさいで、僕はいつも通りを演じていた。

その日は夕方から突然雨が降り出していて。

僕は彼女をバイト先まで迎えに行っていた。

たしか、彼女は傘を持っていないはずだから。

しっかりしてるようで意外と抜けているんだ、彼女は。

従業員出口で待ってる僕を見つけた彼女は急いで後ろを振り返り、スマホを隠した。

まるで何かを隠してるように。

今日の夕飯どうする?食べてく?とか、

急に雨降ってきたよねとか。

何気ない会話をしてるはずなのに、彼女はどこか気を張っている。

家でも、僕に隠れてスマホをいじる彼女についに本音が溢れてしまった。

「最近、なんか冷たくない?」

びくっと体を震わせて振り向いた彼女の顔に、もうあの頃の笑顔はなかった。

いつのまにかまとまっていた荷物。ずっと手に握りしめたスマホ。

「ごめん」

彼女はたった3文字の言葉を残して、家を出ていった。

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