第570話


 病院の一階の休憩所に陸雄達が移動し、古川達と合流する。


「フッ、三岳は大丈夫そうですよ」


 古川に紫崎がそう言って、古川が椅子から立ちがある。


「中野監督のインプレッサに乗ろう。松渡君と陸雄君にはちょっと寄ってほしいところがあるの。紫崎君は先に送らせるから家に戻ってね」


 古川がそう言って、中野監督を見る。


「岸田には今後の為にあの場所に行かなくてはならない。松渡もついてこい。朋也様はまだこれからと言う時だから、見せられない場所だしな」


 中野監督の言葉に陸雄達が不思議に思う。


「―――どんな場所なんです?」


「行けば解る―――ここを出るぞ」


 中野監督がそう言って、メンバーと一緒に病室を出ていく。

 外は夕方になったばかりだった。



 紫崎を家に送った後―――。

 中野監督がインプレッサで移動する中で―――。

 助手席の古川が後列の陸雄に話す。


「私がデッドボールに怖がる理由がある場所―――灰田君以外には喋らないでね。野球部としてではなく私個人の約束だよ。守ってくれる?」


「古川さんがデッドボールに怖がる理由? ―――わかりました」


 中野監督が運転しながら喋る。


「岸田、松渡―――練習をどんなに積み重ねた優秀な投手でもな。試合中のたった一回の事故を見て、選手を辞める時がある」


 松渡が何かに気付いて、黙る。

 陸雄は三岳のことを思い出し、話す。


「三岳さんのデッドボールは確かに今思えば怖かったです。でも選手生命を失うことの意味と、それでも野球選手として次に進むことを三岳さんに教えてもらいました。次からは気を付けます」


 中野監督が運転しながら直線を走る。


「その次に進めない時もある―――」


「そんなことないですよ」


 陸雄が返答すると寺の前の駐車場に着く。

 中野監督が車を止める。


「その次に進めない理由がある場所に着いたぞ」


 陸雄達が車を降りる。


「ここって―――お寺?」


 陸雄が声を漏らす。

 メンバーが夏の夕方に寺に入っていく。



 寺の関係者に中野監督が話すと外にある扉を開ける。

 辺りはお墓だらけだった

 寺の付近ある墓地に陸雄達が入っていく。

 陸雄が何かを想像して、汗を流す。

 松渡は既に気付いているのか、悲しい表情のまま歩いていく

 

「中野監督―――ここです」


 古川がそう言って、線香を墓の前に差し込む。

 古川が座り込んで陸雄に顔を向けずに弱々しい声で話す。

 陸雄と松渡が墓の前で墓石に書かれた名前を見る。


「ここは私のお姉ちゃんのお墓。三年前の夏にお母さんの病院で息を引き取ったの―――」


 古川がそう言って、座りこんで両手を合わせる。

 ―――『古川瑠香』(ふるかわるか)と書かれた墓石をメンバーが見る。

 陸雄が心臓の鼓動が早くなりながら、汗を流す。


「お、お姉さんって、まさか―――?」


 古川が立ち上がり―――話す。


「高校二年の女子硬式野球の公式試合で打席に立って―――相手投手の投げたデッドボールで倒れたんだ」


 松渡が古川に許可をもらって、墓の前で座り―――両手を合わせる。

 陸雄が汗を流す


「デッドボールで……古川さんの姉が……人が死ぬ?」


 陸雄が息を止めたかのように一時的に生気を無くす。





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