第551話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――七番―――」


 七番打者が打席に立つ。

 ハインが考えこんでサインを送る。

 雨がポツポツと降る。


(このタイミングで振り始めるとはな―――リクオ、雨の野球は制球にも影響する。早めに抑えるぞ)


 陸雄が頷いて、構える。

 打者が構えるとセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。


「―――遅い! 打てる!」


 打者がスイングする。

 僅かにボールがコースを外れて、斜め下に落ちる

 不安定なストレートをバットで捉える。

 カキンッと言う金属音と共にボールが飛ぶ。


「これ以上―――好き放題にやらせるかよ!」


 九衛が横に高く飛ぶ。

 グローブにボールが入る。


「―――アウト! チェンジ!」


 審判が宣言する。

 九衛が捕球したまま着地する。


「金髪! 腑抜けたリードしてんな。チェリーもしっかり投げ込めよ! バカバッテリーがっ!」


 九衛が怒鳴って、陸雄に送球する。

 香月高校のランナー達がベンチに戻っていく。

 陸雄が言い返せずにマウンドにボールを置く。

 雨が本格に降り始める。


(厳しいな。不調のリクオが攻略されている―――不味い流れだ。交代させたいべきだが、次は下位打線―――次のイニングからはツーアウトにさせてキリマを抑えるしかない)


 ハインが雨に打たれながらベンチに戻る。

 陸雄達もベンチに戻っていく―――。

 松渡と坂崎は投球を終える。


「坂崎~。雨酷くなってきたから戻ろう~。十分肩作れたよ~」


「う、うん……試合はどうなってるんだろう……?」


 坂崎がスコアボードを見る。

 七回裏が終わり―――点差は10対12―――。

 坂崎が声を漏らす。


「ま、負けてる…………」


 坂崎の言うように大森高校の劣勢だった。

 スタンドの客が傘をさしている。

 柊が傘をさして、不安そうにベンチを見る。


「悪いことが起らなきゃいいだけど―――」


 柊がそう言った頃には雨が降り―――雨天決行で試合が進む。



 香月高校のレギュラーが守備位置に着く。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「八回表―――大森高校の攻撃です。一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ハインが右打席立つ。

 雨の中で佐伯が立ち上がる。


「―――敬遠か―――意地でも最小に点を抑えて、雨の中で勝ちたい腹か―――」


 ベンチの中野監督が腕を組んで話す。

 古川がスコアブックを書きながら返答する。


「雨の中だと制球にも影響しますしね。ハイン君は雨でもボールを見逃しませんし、堅実な手だとは思います」


 古川が言い終えて、四球目のボール球が佐伯のミットに入る。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 ハインがバットを捨てて、ゆっくりと一塁へランニングする。


「雨が降ったとはいえ、まだグラウンドがぬかるんでないか―――泥で滑らないように慎重に走るか―――」


 そう言って、一塁を踏む

 佐伯が返球し、切間が受け取る。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る