第540話


 香月高校のレギュラーが守備位置に着く。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「七回表―――大森高校の攻撃です。一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ハインが右打席に立つ。

 佐伯が立ち上がる。


「敬遠か―――意地でも最小限に抑えたい腹か―――」


 ベンチの中野監督がそう言って、腕を組む。

 切間がゆっくりとボール球を投げていく。

 四球目のボールが入る。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 ハインがバットを捨てて、一塁にランニングする。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――二番―――ショート―――紫崎君―――」


 紫崎が右打席に立つ。

 佐伯が座り込む。

 一塁のハインがリードを少し取る。

 ベンチの中野監督がサインを送る。

 確認した紫崎がヘルメットに指を当てる。

 切間と紫崎がそれぞれ構える。

 佐伯がサインを送る前に―――投球モーションに入る。

 佐伯が慌ててミットを構える。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。


(監督の言うように一球見てそれがストレートなら―――)


 紫崎が見送る。

 佐伯のミットにストレートボールが入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに132キロの球速が表示される

 佐伯が返球する。

 紫崎が構え直す。


「まず間違いなく―――」


 捕球した切間がすぐに構える。

 そのままセットポジションで投げ込む。

 真ん中にボールが飛んでいく。


「―――あの変化球を次に投げる!」


 紫崎がそう言って、スイングする。

 打者手前でボールが左にカーブよりも浅く曲がる。

 バットの軸にボールが当たる。

 切間がハッとする。


「スラーブを読まれていた!?」


 声に出した頃には金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 一塁のハインが走り―――バットを捨てた紫崎も走る。

 レフト後方にボールが落ちて、レフトが捕りに行く。

 拾い上げて、セカンドに送球する。

 ハインが既に二塁を踏み終える。

 セカンドが捕球する。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 セカンドが紫崎を見るときには―――。

 紫崎が一塁を蹴り上げた後だった。

 ランナーが一、二塁となる

 一塁の紫崎が誇らしげに胸を張る。


「フッ、辛うじて―――打てたか。河川敷のリベンジは出来たな」


 セカンドが切間に送球する。

 切間が捕球して、背を向ける。

 ―――どこか苛立ちを見せていた。




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