第522話


 香月高校のレギュラーが守備位置に着く。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「五回の表―――大森高校の攻撃です。七番―――センター、灰田君―――」


 灰田が右打席に立つ。

 捕手の佐伯がサインを送る。


(佐伯のアホ。んな安直なリードで抑えられっかよ! ここは俺の好きなように投げさせろ)


 ボールを持った切間が首を振る。

 佐伯が苦い顔をして、ミットを構える、

 ベンチの中野監督が灰田にサインを送る。

 それを見た灰田がヘルメットに指を当てる。

 灰田が構え―――切間がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中にボールが飛んでいく。


「―――来た! 必ずアレが来る!」


 灰田が声を出して、フルスイングする。

 打者手前でスライダーよりも深く左に曲がりながら落ちる。


「中野の―――」


 バットの芯にボールが当たる。


「―――サインどうりだぜ!」


 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。


「何だと! 俺のスラーブを!?」


 切間が声を漏らす。

 灰田がバットを捨てて、一塁に走る。

 ライト方向にボールが高く飛ぶ。

 ライトが後方に走る。

 外野フェンスよりやや離れた場所にボールが落ちる。

 ライトがたどり着いて、拾う。

 灰田が一塁を蹴り上げる。

 そのまま二塁に向かう―――。

 ライトがセカンドに送球する。


「やっべ! 戻んぜ!」


 灰田が一塁に戻る。

 セカンドが捕球して、ファーストに投げる。

 灰田が一塁を再び踏む。

 ファーストが捕球する。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。


「ふぅ! 強面野郎やハインに紫崎みたいにツーベースヒットをやったろうと思ったけど、俺じゃキツイか」


 灰田がファーストの送球を見ながら、ボヤく。

 切間が捕球して、キャッチャーボックスを見る。

 佐伯が切間を目を細めて見る。


(っち! 解ったよ。お前のリードに従えば打たれずに済んだ―――だろ?)


 切間が構える。




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