第518話

 打者がバットを長めに持ち替え、構える。

 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが真っ直ぐ飛んでいく。

 打者がスイングする。

 バットの軸上にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが二塁近くにやや高く飛ぶ。

 セカンドの九衛が届かずにボールはライトとセンターの中間に低く飛ぶ。

 切間が二塁に走る。

 打者がバットを捨てて、一塁に走る。

 灰田がライト方向に走る。

 陸雄が後ろを向く。


(遅めのストレートを投げろってハインにサイン送られたけど―――ちょっと球速が早い気がしたがしたな。緩急が出来てないのかも―――)


 灰田が落ちてフェアになったボールをグローブで捕る。

 そのまま二塁に送球する。

 セカンドの九衛が捕球体制に入る。

 切間が二塁を踏む。

 ボールが九衛のグローブに入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 打者は一塁を蹴り終えていた。

 九衛がそのまま陸雄に送球する。

 陸雄がボールを受け取り、キャッチャーボックスを見る。

 ランナーが一、二塁になる―――。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――三番―――レフト―――三岳君―――」


 三岳が左打席に立つ。


「ハイン君だったかな―――」


 三岳が構えて、ハインに声をかける。


「リードを少し変えたようだが、俺達はそれくらいで流されはしないよ。緩急付きの直球だけではウチは攻略できないよ―――」


 ハインが黙り込んでサインを送る。

 陸雄が頷いて、構える。


「陸雄君が本調子ではないようだが、キャッチャーならそういう時はどうすれば良いのか? 俺にはそれが読めるよ」


 三岳の言葉が―――投げモーションに入る陸雄の前に言葉を終える。

 指先からボールが離れる。

 外角のやや低めにボールが飛んでいく。


「勝たせてもらうよ―――」


 三岳がそう言って、フルスイングする。

 打者手前で左に小さく曲がる。

 切間のバットの芯にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。


(くっ! やはり外角のスライダーをミタケは詠んでいたのか―――)


 ハインが表情を変えずに反省する。

 ライト方向にボールが高く飛ぶ。

 駒島がボールを見上げる。


「なんじゃあれは? 鳥か? 飛行機か? いや―――」


 駒島がブツブツと上空を越えるボールを見上げる。

 外野フェンスを越えて、ボールが入る。


「―――いやボールじゃった」


 駒島がそう言って、鼻をほじくる。

 三岳が初球でホームランを打った。

 三塁側スタンドから歓声が上がる。

 切間も含めたランナー達がランニングで各塁を踏んでいく。

 ハインが立ち上がる。


(三岳にはスライダーが通用しないのか? こうなると内角と真ん中を中心に攻略するしかない。しかし外角に速度が加われば抑える可能性は上がる)


 切間がその間にホースを踏む。

 香月高校に6点目が入る。

 次のランナーがホームベースを続いて踏む。

 香月高校にさらに7点目が入る。

 マウンドの陸雄が脱力して、目を瞑る。


(これが兵庫四強の実力か―――すげぇ強い―――でも勝ちたい)


 陸雄が目を開く。

 三岳が最後にホームベースを踏む。

 香月高校に8点目が入る。





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