第500話


 メンバーがベンチに戻る中で―――。

 中野監督は考え込む。


(初見だからか―――下位打線は振ってこなかったな。代わりに上位打線は積極的に振ってくる。下位打線の打率もそこまで悪くはないはずだが…………)


 大森高校のメンバーが攻撃準備に入る。

 二回裏が終わり―――点差は3対1。

 大森高校の優勢で終わる。



 香月高校のレギュラー達が守備位置に着く。

 マウンドの切間がボールを拾い上げる。

 そしてウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「三回の表―――大森高校の攻撃です。三番―――セカンド―――九衛君―――」


 左打席に九衛が立つ。

 中野監督がサインを送り、九衛がそれを見る。

 そしてヘルメットに指を当て、構える。

 捕手の佐伯がサインを出す。

 切間が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 九衛がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 外角やや高めにボールが飛んでいく。

 九衛がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に曲がりながら小さく落ちる。

 九衛のバットの軸にボールが当たる。


「―――初球打ちだと!」


 切間が声を上げる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 九衛がバットを捨てて、一塁に走る。

 ボールが三遊間を抜ける。


「―――くっ!」


 切間が後ろを振り向いて、ボールを目で追う。

 レフトが前に走り、手前でバウンドしたボールを捕りに行く。

 九衛が余裕を持って、一塁を蹴り上げる。

 ボールを拾い上げたレフトがファーストに送球する。

 九衛は二塁に行かずに一塁に残¥る。

 ファーストのグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 九衛が高笑いする。


「がっはっはっ! 今のスライダーは不味かったなぁ? せめてその場面はスラーブならカウント取れてたかもな」


「くそ! あの野郎に苦手意識持ちそうだぜ!」


 切間が悔し気に言って、ファーストからボールを受け取る。



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