第489話


 星川からボールを受け取った陸雄がキャッチャーボックスを見る。

 一塁の三岳が眼鏡をかけ直す。


「さて―――ここから点を取り返したいところだが、野球は基本九回まである。じっくり取り返していくか―――」


 そう言って、次の打者を見る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――四番―――キャッチャー、佐伯君―――」


 佐伯が右打席に立つ。


(ノーアウトで一、二塁だ。キャプテンの三岳さんまで返したいけど―――打つことだけ考えよう)


 佐伯が構える。


(相手は四番だが、今はリクオの調子を上げることだけ考えよう―――ミタケには外角のストレート以外は真ん中と内角で攻めるしか今のところ手段がないしな)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、投球モーションに入る。

 佐伯がジッと見る。

 指先からボールが離れる。


(ボールが高めに浮いている―――捕手の俺だから解る。これは―――)


 外角の中央にボールが飛んでいく。

 佐伯がタイミングを合わせて、スイングする。


(―――変化球だ!)


 打者手前でボールが左に小さく曲がる。

 佐伯のバットがそのスライダーを軸で捉える。


「なにっ! 初球打ちで!」


 陸雄が声を上げる。

 ボールが二遊塁間に飛んでいく。

 ショートの紫崎が横にジャンピングキャッチを試みる。

 そのまま紫崎のグローブにボールが入る。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。


「フッ、そうそう何度も抜かれてたまるかよ」


 紫崎が着地する。

 

「紫崎君。ナイスプレイです!」


 ファーストの星川が声を上げる。

 ランナー達は動かずに塁を踏んだまま紫崎を見る。


「くぅ! 初見だからってのもあるが、もっと球を選んだ方が良かった。三岳さん、すみません」


 佐伯がそう言って、打席を離れる。

 聞いていた三岳が塁を踏みながら、腕を組む。


「選球眼持ちの佐伯が結果的に流されたか―――。2点差のイニングとはいえ、不謹慎だがこれ以上は点を貰えないかもな」


「フッ、陸雄。やっとワンアウトだな。俺に捕らせたがな」


 紫崎がそう言って、陸雄に送球する。


「悪い! 次は抑えていく」


 陸雄がそう言って、捕球する。


「がっはっはっ! 来年は紫崎以上のショートが来ないのが辛いところだな」


 九衛が明るい声でそう言う。

 紫崎がフッと笑って、構える。



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