第466話


「フフッ、その拾った何もなかった少年が―――今や俺達の決勝での相手投手になるかもしれないか……是非試合したいものだな」


「その中に弟のこと忘れるとは、いつも自慢してるくせに薄情な事で―――」


 乾の言葉に紫崎が少しだけ雰囲気が変わる。


「弟の隆(たかし)か、俺なりに愛情を注いでいるぞ。今はむしろあいつから無意識に愛情を求めているくらいだ。クククッ…………」


 紫崎兄はどこか歪な笑みを浮かべる。

 乾が何かを察したように言葉を告げる。


「…………良い結果に転ぶと良いな。お互いにさ。―――ほれ、そろそろ練習始まんぜ」


 乾の言葉で二人は練習場に戻る。



 それぞれの練習が終わった夜―――。

 陸雄が家に帰宅する。


「ただいまー。母さん、今日オムライスー?」


 陸雄が靴を脱いで玄関から食卓に移動する。

 食卓に清香がいた。


「陸雄。ただいまー♪」


「あっ、今日両親忙しいのか?」


「うん。勉強終えて、陸雄のお母さんにメール送ったらご飯食べに来ても良いって♪」


 キッチンから母親が鍋物を持って現れる。


「そういうことだからアンタも早く制服を洗濯物に入れて、お風呂入って着替えてきなさい」


「わかった。おっ、今日はすき焼きですか。清香食べ終わったら、勉強頼むわ」


「うん、いいよー♪」


 清香の返事と共に陸雄が浴室に移動する。

 いつものように制服と下着だけ洗濯機に入れて、洗剤を入れる。


(やっぱ、マネージャーになった柊のおかげでユニフォーム洗わなくて済むのはデカいな)


 陸雄がそのまま浴室に入る。

 シャワーを浴びて、髪と体を洗った後に風呂に入る。


「あぁ~生き返るわぁ~!」


 陸雄が温かい風呂の中で目を細める。

 浴室の奥から母親の声が聞こえる。


「陸雄ー。清香ちゃんと先にすき焼き食べてるからね」


「あ、そういうことならすぐ上がるわ。先に食べてて良いよ」


 陸雄がそう言って、風呂から上がる。

 

(寝る前に母さんに頼んで、新しいお湯使って―――二度風呂しちまうか。冷蔵庫のカルピスまだ残ってたよな?)


 陸雄が浴室から出て、タオルで体を拭いていく。

 筋肉が着いた投手用の体つきに陸雄は少しだけ優越感を覚える。


(成長期ってすげぇなぁ―――中学よりも体つき良くなってるし、野球のおかげだな)


 タオルを洗濯機に入れて、起動ボタンを押す。

 洗濯機が起動し始めた時に―――私服に着替える。

 そのまま食卓に移動する。

 清香たちが雑談しながらすき焼きを食べている。


「おまたせ」


 陸雄がそう言って、清香の隣に座る。


「陸雄、卵を椀にいれるねー♪」


 清香がそう言って、卵を割って椀に入れる。


「おっ、サンキュウ! やっぱすき焼きは卵と醤油に肉や白菜に豆腐を食べるのが良いよなー」


 椀を受け取り、いただきますっと言って食事を始める。

 陸雄が鍋の中の肉と野菜を卵に混ぜながら食べていく。





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