第467話


「陸雄。最近練習ばかりで大丈夫?」


 清香が食べ終えて、話す。


「いやー五回戦から強豪校でさ。気合い入るわけよ」


 陸雄がそう答えて、肉を食べる。


「あまり根詰めちゃダメだよ」


 清香がそう言って、飲み物を飲む。


「そういえば、柊がマネージャーになったんだよ」


 陸雄が次の肉を取って、清香に話す。


「ああ、心菜ちゃん結局入ったんだ」


「―――結局?」


 陸雄が箸を動かすのを止める。


「麻衣已工業高校(まいのみこうぎょうこうこう)の野球部に中学時代の恋人がいるんだって―――」


「へー、そいつと当たるかな。―――って、そこって兵庫四強の一校じゃん!」


 陸雄が驚いて、ガタッと机に振動を当える。


「陸雄。もう少し静かに食べなさい!」


 陸雄の母親に注意され、陸雄が謝る。


「ああ、悪い母さん―――甲子園行ったらオムライス作ってくれよな」


「全く現金な子ね。清香ちゃん。ウチの馬鹿息子にちゃんと勉強教えて、進学させてね」


「はーい♪」


 清香が嬉しそうに答えて、食器を片付ける。


(強豪校の彼氏か―――柊がマネージャー入ったことにそれが関係あるのかも―――この雰囲気じゃ聞けねーか)


 陸雄がそう思い、すき焼きを食べていく。

 食事が終わったころには清香といつもの勉強をして、清香を家まで送った。



 次の日の朝練の日―――。

 陸雄と灰田はいつもよりも早めにグラウンドに来ていた。


「なんだ。陸雄も眠れなかったクチか?」


 灰田がユニフォームに着替えて、そう答える。


「いや~、二度風呂したら目がスッキリしちゃってさ。あんまり眠れんかった訳よ」


 そう言ってユニフォーム姿で一緒に更衣室から出ていく。


「先客がいるみたいだぜ?」


 灰田の言葉で陸雄が一人の先輩を見る。


「錦先輩―――」


 陸雄が錦を呼びかける。


「やあ、早いんだね。朝練はまだ先だよ?」


 錦が珍しく試合や練習以外で久々に話す。

 その時に灰田がふと思う。


(他のメンバーや監督も来てないし、ここらで言うべきだな)


 灰田がそう思い、口に出す。


「錦先輩―――どうしてプロを目指さないんですか?」


「お、おい! 灰田。何もいきなりそんなこと言わなくても―――」


 そう言って、陸雄が慌てる。

 錦が準備体操を終えて、顔を向けて答える。


「―――甘い世界じゃないから」


 その言葉に陸雄がギクッとする。

 灰田が気にせずに話を続ける。


「甘い世界じゃないなら、甲子園行ったら優勝したらプロになってください。優勝したら九衛に星川はなると思いますよ」


 錦が顔を向けたまま真顔で返答する。


「現在の高校野球だけで―――プロ野球に最後まで通用するか難しいんだよ」


 陸雄が話に割り込む。


「そんなのやってみないとわからないじゃないですか? やる前から諦めてどうするんですか?」


「陸雄君―――プロ野球は年を重ねるごとに辞めていく人が多い。年棒も減っていくし、割に合わなければ新人に切られる。そのプロ野球の現実を知ったうえで言っているの?」


「それは―――」


 陸雄が言葉を途中で詰まらせる。




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