第467話
「陸雄。最近練習ばかりで大丈夫?」
清香が食べ終えて、話す。
「いやー五回戦から強豪校でさ。気合い入るわけよ」
陸雄がそう答えて、肉を食べる。
「あまり根詰めちゃダメだよ」
清香がそう言って、飲み物を飲む。
「そういえば、柊がマネージャーになったんだよ」
陸雄が次の肉を取って、清香に話す。
「ああ、心菜ちゃん結局入ったんだ」
「―――結局?」
陸雄が箸を動かすのを止める。
「麻衣已工業高校(まいのみこうぎょうこうこう)の野球部に中学時代の恋人がいるんだって―――」
「へー、そいつと当たるかな。―――って、そこって兵庫四強の一校じゃん!」
陸雄が驚いて、ガタッと机に振動を当える。
「陸雄。もう少し静かに食べなさい!」
陸雄の母親に注意され、陸雄が謝る。
「ああ、悪い母さん―――甲子園行ったらオムライス作ってくれよな」
「全く現金な子ね。清香ちゃん。ウチの馬鹿息子にちゃんと勉強教えて、進学させてね」
「はーい♪」
清香が嬉しそうに答えて、食器を片付ける。
(強豪校の彼氏か―――柊がマネージャー入ったことにそれが関係あるのかも―――この雰囲気じゃ聞けねーか)
陸雄がそう思い、すき焼きを食べていく。
食事が終わったころには清香といつもの勉強をして、清香を家まで送った。
※
次の日の朝練の日―――。
陸雄と灰田はいつもよりも早めにグラウンドに来ていた。
「なんだ。陸雄も眠れなかったクチか?」
灰田がユニフォームに着替えて、そう答える。
「いや~、二度風呂したら目がスッキリしちゃってさ。あんまり眠れんかった訳よ」
そう言ってユニフォーム姿で一緒に更衣室から出ていく。
「先客がいるみたいだぜ?」
灰田の言葉で陸雄が一人の先輩を見る。
「錦先輩―――」
陸雄が錦を呼びかける。
「やあ、早いんだね。朝練はまだ先だよ?」
錦が珍しく試合や練習以外で久々に話す。
その時に灰田がふと思う。
(他のメンバーや監督も来てないし、ここらで言うべきだな)
灰田がそう思い、口に出す。
「錦先輩―――どうしてプロを目指さないんですか?」
「お、おい! 灰田。何もいきなりそんなこと言わなくても―――」
そう言って、陸雄が慌てる。
錦が準備体操を終えて、顔を向けて答える。
「―――甘い世界じゃないから」
その言葉に陸雄がギクッとする。
灰田が気にせずに話を続ける。
「甘い世界じゃないなら、甲子園行ったら優勝したらプロになってください。優勝したら九衛に星川はなると思いますよ」
錦が顔を向けたまま真顔で返答する。
「現在の高校野球だけで―――プロ野球に最後まで通用するか難しいんだよ」
陸雄が話に割り込む。
「そんなのやってみないとわからないじゃないですか? やる前から諦めてどうするんですか?」
「陸雄君―――プロ野球は年を重ねるごとに辞めていく人が多い。年棒も減っていくし、割に合わなければ新人に切られる。そのプロ野球の現実を知ったうえで言っているの?」
「それは―――」
陸雄が言葉を途中で詰まらせる。
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