第423話


 それを見るハインがバットを手に取る。


「トモヤのホームベースの帰還の為にも―――リクオの登板の為にも俺の番で点を取らなくてはな」


「金髪―――お前の打順で犠打で終わったら、殺すからな。チンピラ野郎の隠れた名プレーと中野監督の見事な采配をドブに捨てるなよ」


 ハインが九衛を見て、無言で頷く。


「フッ、ハイン。九衛は本気みたいだぞ。犠打でプロレス技をかけられて、そのままあの世で賽の河原で石を積み続けることにだけはなるなよ」


「タカシ。サイの川とは何だ? サイコロを振り続ける河なのか? それと犠打にはしないから安心しろ」


 松渡がその話の輪に入る。


「賽の河原はハインにも僕にも縁のない場所だから、覚えなくても問題ないよ~。そ・れ・よ・り・も・速水の緩急を観察しようよ~! 効いてるはずだよ~」


 松渡が話しているときに速水が投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 ボールが早めに真っ直ぐ飛んでいく。

 大城がチアガールの揺れる胸とパンツを見ながら―――見逃す。

 

「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに130キロの球速が表示される。

 ベンチの星川が関心する。


「盗塁が効いているみたいですね。二塁の灰田君が僅かにリードしてるのが良い感じに速球にさせてますね」


 山田が返球して、速水が受け取る。

 二塁を目で牽制する。

 灰田が三歩離れた位置でリードを止める。

 速水が舌打ちして、怒りをぶつけるように打者に投球する。

 大城がチアガールのパンツを脳裏に刻み。

 真っ直ぐ飛んでいくボールを見逃す。

 山田のミットに捕球される。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに128キロの球速が表示される。

 大城が審判に戻れッと注意されて、打席を離れる。

 山田が速水に返球する。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――九番―――ライト―――駒島君―――」


 駒島が左打席に立つ。

 山田がサインを送る。

 速水が頷いて、構えた駒島を見た後に投球する―――。

 真ん中にボールが真っ直ぐ飛んでいく。


「ヌッ! 早い!」


 駒島がそう言った後にはボールが通過する。

 山田のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに127キロの球速が表示される。

 山田が返球する。


(リズムを取って、一番打者を抑えることだけ考えさせるじゃんか)


 速水が捕球して、構える。

 そのまま投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。


「踏み込みが足りんっ!」


 そう言った駒島がスイングする。

 早すぎたスイングと速水の速球が嚙み合ったのか―――。

 バットの上部にボールが当たる。

 カコンッという音と共にキャッチャー上空にボールが浮き上がる。


「打てたけど。キャッチャーフライかぁー。あのクリーチャー頑張った方だな」


 九衛がそう言った後に立ち上がった山田がフライを処理する。


「―――バッターアウト!」


 球審が宣言する。


「ワシの天才打者としての片鱗が見えた気がする。ワシも進化していくのか―――速水、お前にこれからの先のワシの力についてこれるか―――?」


 駒島がブツブツ言いながら、打席を離れる。




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