第424話


 山田が返球して、速水が捕球する。


「……steal(盗塁)されてもスリーアウトはしてみせる。俺の信じる投球で実現できる……そうさ、道は俺が作るもの……それが……KTB! ……清く正しいBaseball道さ……」 


 そう呟いて、マウンドで速水が構える。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校、一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ハインが右打席に立つ。

 山田がサインを送る。

 速水が頷く。

 ベンチの中野監督がハインにサインを出す。

 ハインがそれを見て、ヘルメットに指を当てる。

 速水とハインがそれぞれ構える。

 速水が投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。

 ハインのバットが僅かに動くがスインをしない。

 山田がミットを上に上げて、捕球する。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに132キロの球速が表示される。

 初球は誘い球だった―――。

 ハインが考え込む。


(初球を誘い球―――ナカノ監督の指示の通りだ。この配球から考えられる次の球種は―――)


 山田がその間に返球する。

 速水がボールを受け取り、構える。

 ベンチ中野監督が腕を組んでハインを見る。


(まぁ、捕手のハインなら気付くだろう。私がそこまで細かいサインを送らせて意識させるのもなんだしな)


 速水が投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 ハインがタイミングを合わせて、スイングする。


(ハヤミズの高めを意識させて、バットを上に振らせる配球に違いない―――!)


 外角低めにボールが飛んでいく。

 打者手前でボールが左に浮いて落ちる。

 ―――シンカーだった。

 ハインがバットの軸でボールを捉える。


「シンカーが読まれていた? ……冗談じゃねぇ……」


 速水の小声もバットの金属音と共にかき消される。

 ハインが力を入れて、打ち上げる。

 左中間にボールがやや低めに飛んでいく。

 灰田が三塁に走る。

 ショートが横に飛んでジャンピングキャッチしようとする。

 グローブの先にボールが掠めて、軌道が変わる。

 バットを捨てたハインが一塁に走る。

 ボールは左中間からセンター方向に低く落ちる。

 センターが走って、落ちたボールを捕球する。

 ファーストの久遠寺に急いで送球する。

 塁を踏んだ久遠寺が捕球体制に入る。

 その間に灰田が三塁を踏む。

 ハインが一塁を蹴り上げるとほぼ同時に―――久遠寺のグローブにボールが入る。

 スタンドが静まり返る。


「―――セーフ!」


 間を置いて―――塁審が宣言する。

 三塁側スタンドに歓声が上がる。


「フッ、ハインの奴―――結構ギリギリだったな」


 ネクストバッターサークルの紫崎が立ちあがる。


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