第405話

 二塁ランナーの星川が苦笑する。


「1点差を守り切れば良いんですけど―――なんだか先が長そうですね」


 二人がベンチに戻り―――。

 白石高校のメンバーもベンチに戻っていく。

 山田から送球されたボールを速水がマウンドに置き。

 三回裏が終わる―――。

 6対7で大森高校の1点差の劣勢となる。



 四回の表―――。

 大森高校のメンバーが守備位置に着く。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「四回の表―――白石高校の攻撃です。―――六番―――ピッチャー、速水君―――」


 速水が右打席に立つ。

 松渡がボールを持って、構える。


(さ~て、追加点をあげるわけにはいかないよね~)


 松渡がハインを見る。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷く。

 そして投球モーションに入る。

 速水が観察する。


(……俺と同じサウスポーでありながらやや遅めの…………motion(モーション)……)


 指先からボールが離れる。

 外角の中心にボールが飛んでいく。

 速水がスイングする。

 

(……ジャストミート、さ……)


 バットの芯にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが三遊間に飛んでいく。


「ありゃ~! 初球打ち~!」


 松渡が声を漏らす。

 バットを捨てた速水が一塁に走る。

 ショートの紫崎がバウンドしたボールを捕りに行く。

 紫崎がグローブでボールを捕り終え―――。

 塁を踏んだファーストの星川に送球する。

 速水がスライディングする。

 星川のグローブにボールが入る。

 僅かに速水が早かった。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。


「僕のフォーシームのストレートをインコースで打ったのに意外と足早いんだな~」


 松渡が関心する。

 星川が送球する。

 松渡がボールを受け取り、打席を見る。

 星川が速水に話しかける。


「速水さんって、野球やるきっかけってなんですか? 監督のお父さんに薦められたからですか?」


 速水が一塁から立ち上がり、答える。


「……監督である父親に野球をすればプロ野球選手になって、アイドルと番組で会えてそのまま付き合えるから始めたのさ……」


 真顔で答える速水に星川がクスクスと笑う。


「欲望に素直な人なんですね。僕はメジャーリーガーになりたいからです」


「……俺達に勝たなければそのdream(ドリーム)も掴めずに堕天使のように汚れながら堕ちていくさ……何も始まらないまま墜落していく……永遠に地面が見えずにどん底へ誘うのさ……」


 そう言って、速水がリードを取る。


「……ちょっと詩人なんですね……詩集の同人誌か商業本が出たらアマゾンで予約しますよ」


 そう言って―――星川が構える。



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