第374話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――九番―――」


 九番打者が打席に立つ。

 ハインが灰田をジッと見る。


(このイニングでトモヤが真の投手として目覚めるにはまだ先のようだな。ナカノ監督の事前の言葉どうりにまた投げさせよう―――)


 灰田が目線が安定しないまま、ハインを見る。

 ハインがサインを出す。

 灰田が唾を飲んで、ぎこちなく頷く。

 九番打者が構える。

 灰田が僅かに緊張しながら、ごまかすように投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角やや低めにボールが飛んでいく。


(遅い上にコースよりの低い―――トモヤの不安定なストレートでこれでは打たれるな)


 ハインが思うよりも早く―――スイングした打者のバットの軸上にボールが当たる。

 ボールが高く浮いていく。

 運良く―――キャッチャーフライだった。

 ハインがミットを上げて、落ちてくるボールを冷静に処理する。

 ミットにボールが入る。


「―――アウト! チェンジ!」


 球審が宣言する。

 一回の表がここで終わる。

 メンバー達がベンチに戻っていく間―――。

 ハインが返球する。

 灰田が慌てて捕球してマウンドにボールを置く。

 そしてメンバー達に遅れて、戻っていく。

 自分のグローブを灰田が見る。


「終わったのに……次が打たれると……」


 灰田が言葉を途中で止めて、遅れてベンチに戻る。

 ハインと中野監督は表情こそ崩さなかったものの―――灰田の異変に気付いていた。


「…………」


 黙り込んだ灰田がベンチに座り、黙って俯く。

 陸雄は気づかずにメンバーに声をかける。


「よし! こっから一気に取り返しておこうぜ! 頼むぜ―――みんな!」


 灰田のみ陸雄の言葉が遠くから聞こえているような錯覚を覚える。


(俺―――これから先も通用しないんじゃないのか?)


 そんな不安と弱音を心の中でふと思う―――。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 次のイニングの始まりの合図―――。

 0対4で大森高校の攻撃が始まる。


「一回の裏―――大森高校の攻撃です―――。一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ハインが右打席に立つ。

 中野監督がサインを送る。


(ナカノ監督は速水が一球待った後に必ずそれが来る。その後は変化球で抑えてくるから、二球目のそれを打て―――了解)


 ハインがヘルメットに指を当てる。

 マウンドを見て―――バットを構える。

 捕手の山田がサインを送る。

 

(……冗談じゃねぇ……ここは俺の思いどうりに投げるさ……誰かがそう言った……)


 速水が首を振り、山田がサインを止める。


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