第373話


 灰田が捕球して、黙り込む。


(また初球打ちだ……俺のストレートが四回戦で通用してないのか……?)


 灰田が黙り込んで、恐る恐るハインを見る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――八番―――」


 八番打者が打席に立つ。

 灰田の心臓が高鳴っていく―――。


(俺の楽観的な甘さがここで見事に出ているじゃねぇか―――考えてみれば甘かった)


 灰田が構えるのを僅かに遅らせる。

 悪い方向に灰田が考えていく。


(俺がブランク持ちなだけじゃない。高校野球の四回戦だぞ? 相手が強いに決まってるじゃねーか―――)


 ハインがサインを送る。


(マウンドに逃げ場はない、そんなこと解ってるさ。それでも投げろって言うのかよ?)


 灰田がハインをジッと見る。

 二塁の速水がリードを取っていく。

 灰田の鼓動が高鳴る。

 ベンチの中野監督が灰田をジッと見る。


(可哀そうだが、ここを乗り越えないようでは甲子園はおろか―――この先も騙し騙し使っても投手として通用しない―――朋也様、今後化けるかどうかの私からの課題だ)


 ハインがサインを終えて、ミットを動かす。

 灰田が苦しそうな表情で投球モーションに入る。

 投げ終えた後に―――速水が二塁から走る。

 早めの速球が外角真ん中に飛んでいく。

 球速は指定した通りだが、ハインの指定したコースよりも高い場所だった―――。


(早いけど、このコースは打てる! ここっ!)


 ―――打者がスイングする。

 バットの軸上にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが一、二塁間に飛んでいく。

 松渡が走って、飛び込む。


「―――はじめん!」


 ベンチの陸雄が声を上げる。

 ボールが地面に落ちる寸前の場所―――。

 セカンドの松渡が倒れ込むようにグローブでボールを捕える。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。

 松渡がグローブのボールをそのまま上に上げるように飛ばす。

 ショートの紫崎が浮いたボールを素手で捕る。

 慌てた速水は二塁に戻る。

 紫崎が二塁を踏む。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 灰田がホッとする。

 紫崎が灰田に送球する。

 灰田が捕球して、松渡を心配そうに見る。


「はじめん! 大丈夫か?」


 灰田が声をかける。


「全然大丈夫だよ~。灰田~、ツーアウトだからこのイニングは僕たちの援護も含めて投げちゃって~!」


 セカンドの松渡がそう言いながら、立ち上がる。


「……あ、ああっ……わかったぜ」


 灰田がボールを握っているのに握力を感じない感覚に襲われる。


「何だ? これ? 俺なんで平気な顔してるんだ? また打たれたのに……何に慣れちまってるんだ?」


 灰田が汗をダラダラっと流していく。



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