第321話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「淳爛高等学校―――八番―――」


 八番打者が打席に立つ。

 相手校の監督がサインを送る。

 打者が頷いて、構える。

 ―――陸雄も構える。

 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。

 打者がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが半個分落ちる。

 ―――チェンジアップだった。

 バットの軸下にボールが当たる。

 陸雄が前に走る。

 打者が一塁に走る。

 真伊已が二塁に走る。

 陸雄が一度地面を跳ねたボールを―――グローブで捕る。


「―――間に合う!」


 陸雄が一塁に送球する。

 塁を踏んだ星川が捕球体制に入る。

 真伊已が一二塁に走る。

 打者が足を遅くする。

 真伊已が二塁を踏む。

 飛んできたボールが―――星川に捕球される。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 そのまま星川が九衛に送球する。

 真伊已が塁を踏むと同時に、セカンドの九衛にボールが渡る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 真伊已が二塁に打者はアウトとなる。


(ワンアウトだが―――八番が送りバント以外でランナーを進塁させた。監督指示とは言え―――仕事してやがるな)


 センターの灰田が遠くから見て―――そう思う。

 九衛から陸雄に送球される。


「チェリー! しっかり抑えろ。真伊已さんに笑われるぞ―――」


 捕球した陸雄が九衛の隣にいる―――真伊已を見る。

 二塁上の真伊已が不敵な笑みを見せる。


「あ・の・や・ろ・う! ウザいの二人揃って、ムカつきが二倍だな」


 陸雄がイラっとする。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「淳爛高等学校―――九番―――」


 そのアナウンスで陸雄がハッとする。


「いかん、いかん。安い挑発を買うな。冷静に投げていこう」


 九番打者が打席に立つ。

 相手校の監督のサインで―――打者が頷く。

 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、構える。

 少し間を置いて―――投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 内角の真ん中にボールが飛んでいく。

 九番打者がバントの構えを取る。

 真伊已が三塁に向かって―――走る。

 バットの先端にボールが当たる。

 コンッという金属音と共にボールが右側に転がる。

 陸雄がまた前に走る。


「くっそ! 俺に集中砲火かよ!」


 打者が一塁に走る。

 陸雄がボールを拾い上げる。

 そのまま星川に送球する。

 塁を踏んだ星川が捕球体制に入る。

 ランナーが半分の距離を走り終えた時―――。

 ボールがグローブに収まる。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 真伊已が三塁を余裕を持って、踏む。

 星川が陸雄に送球する。


「真伊已を三塁に行かせやがった。次は一番打者―――」


 陸雄がそう言って、唾を飲む。


「フッ、残りのイニングを確実に点を入れて―――最悪の場合は延長戦に持ち込む気か―――」


 ショートの紫崎が構えて、九衛に話す。


「ああ、ここでチェリーの真価が、ある意味試されるな―――」


 セカンドの九衛がそう答えて―――構える。



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