弱小野球部の名誉挽回

第319話

　捕手がサインを送る。

　真伊已が頷いて、投球モーションに入る。

　指先からボールが離れる。

　内角低めにボールが飛んでいく

　陸雄がタイミングを合わせて、スイングする。

　打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。

　―――カーブだった。

　陸雄がバットの軸とグリップの中間にボールが当たる。

「―――うわっ！　変なところに当たった！」

　ボールがファーストの白線を越えた先に打ち上げられる。

　走るファーストがやや低いボールを落ちる前に―――グローブを底から上げるように出す。

　そのままボールがグローブに入る。

「―――アウト！　チェンジ！」

　審判が宣言する。

「ま、負けたぁー。くっそー、ぜってぇ次はデカいの打つ！」

　陸雄がベンチに戻っていく。

　残塁していた紫崎と九衛が陸雄を見る。

　紫崎が近づいて、陸雄の肩をたたく。

「フッ、パームボールを意識しすぎだ。カーブ系だけでも真伊已は強いさ」

「紫崎―――すまん。熱くなりすぎた」

　後ろの九衛が陸雄の背中を強めに叩く。

「いってぇ！　何すんだよっ！？」

「チェリー。チャンスを棒に振るな。優勢だから今回はこれで勘弁してやる。守備の登板で返せよ。次から松渡に交代だからな」

　九衛の言葉で陸雄がハッとする。

「そっか―――次のイニングで交代か。って、なんで九衛は知ってんだよ？」

　紫崎が代わりに答える。

「フッ、ベンチの中野監督を見ろ」

　陸雄がベンチを見る。

　中野監督が『次の回から投手交代するから、全力で投げてこい』というサインを出していた。

「ああ―――このタイミングで敢えて出すのな。守備準備で他に話すこともあるし、交代を話してる暇ないしな」

「そういうことだ。チェリー、しっかり制球力つけて投げ込めよ」

「―――解ってる。ハインのリードあっての抑えだしな」

　ベンチに陸雄達が到着する。

　六回の裏が終わる。

　１１対１４で大森高校の優勢だった。

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