第318話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――四番―――レフト―――錦君―――」


 錦が右打席に立つ。

 中野監督のサインを送る前に―――。

 捕手が立ち上がった。

 ―――敬遠。

 スタンドも両チームも察する。

 それでも錦はバットを構えた。

 真伊已が捕手にスローボールを投げていく。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 一塁の九衛が腰に手を当てる。


(しっかし、ツーアウトでこっちが追い込まれてんのに満塁で相手が敬遠で押し出しの1点取られるって―――変な試合だぜ。俺様とは勝負しても錦先輩は別ですってか?)


「―――ボール!」


 二度目のボールを球審が宣言する。

 三塁のハインが考え込む。


(パームボールは確かに二種類使いこなせる真伊已は強いが―――肘の心配がある。そう何度も投げ続けられるものじゃない)


「―――ボール!」


 三度目のボールを球審が宣言する。

 二塁の紫崎が右手を横腹に当てる。


(フッ、陸雄のやつ―――パームボール二種類とも打てるかな?)


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 錦がバットを置いて、一塁にランニングする。

 ハインがホームベースを踏む。

 大森高校に14点目が入る。

 紫崎が三塁に―――九衛が二塁にランニングする。

 ネクストバッターサークルの陸雄がハインにタッチする。


「帰還出来てよかったな。もう一つのパームボールは任せとけよ!」


「リクオ。マイノミのスライダータイプのパームボールは―――普通のスライダより―やや大きめに曲がって落ちる」


「一球で解る―――ハインもヤバいな。紫崎だけでも帰しておくから任せとけよ!」


 そう言って、陸雄が打席に移動する。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、岸田君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 陸雄が右打席に立つ。


(真伊已―――さぁ、勝負だぜ! おっとその前に―――)


 陸雄が中野監督のサインを見る。

 見終わった陸雄がヘルメットに指を当てる。 


(あまり投げてこなくなったカーブとスローカーブ警戒しとけか―――了解)


 真伊已が構える。

 捕手がサインを送る。

 真伊已が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 リリース直後に高めのボールが大きく落ちる。


(―――来た! パームボール!)


 外角中央からさらにボールが横回転して―――左に曲がりながら落ちる。

 陸雄がフルスイングする。

 バットの軸と先端の中間にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 そのままファーストを越えずに白線を越えて―――。

 スタンドに落ちる。

 ―――ファールだった。


(初見とはいえ打ってきましたね。ファールですけど―――)


 真伊已が腕を軽く回す。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「―――ご来場の皆様はファールボールにご注意ください―――」


 捕手が新しいボールを審判から受け取る。

 そのまま真伊已に送球する。


(しかし、ワンストライク扱いに変わりはない―――)


 真伊已がキャッチする。

 陸雄が軽く一振りしてから、構える。



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