第310話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「淳爛高等学校―――三番―――」


 三番打者が打席に立つ。

 相手の監督がサインを送る。

 三番打者が頷く。

 そしてバットで片足を上げたスパイクに二回軽く叩く。

 張元が少しだけリードを取る。

 三番打者が打席に入り、構える。

 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れると同時に―――。

 二塁の張元が走る。


「盗塁ですか! ハイン君!」


 星川が声を上げる。

 ボールはやや遅めに飛んでいく。

 相手の打者が見送る。

 打者手前でボールが一個分落ちる。

 120キロ台のチェンジアップだった。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ハインが立ち上がり、サードに返球する。

 坂崎が塁を踏んで―――捕球体制に入る。

 張元がスライディングする。

 スパイクに塁が振れると同時に―――坂崎のグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 張元の盗塁は成功した。


「俺っちはランナーとしてもできる男なんだよ!」


 張元がそう言って、立ち上がる。


「ご、ごめん陸雄君。あ、あとちょっとだったから―――」


 坂崎が送球する。

 陸雄がボールを受け取る。


「気にすんな。ホームスチールはさせねぇから、安心しとけ」


 そう言って、陸雄がキャッチャーボックスを見る。


(どうするハイン? 上位打線だ。長打にされたら点が入るぜ?)


 ハインがサインを送る。


(リクオ。オレを信じてこのコースに投げろ―――)


 陸雄が頷いて、セットポジションに入る。

 そして指先からボールが離れる。

 真ん中にボールが飛んでいく。

 三番打者がフルスイングする。

 その時―――強風でボールが左にズレる。

 バットの先端にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが低く飛ぶ。

 そのまま白線を越えて、スタンドに入る。

 ファースト手前の―――ファールだった。


「実質これでツーストライクか―――陸雄の奴、追い込んだな」


 センターの灰田が―――涼しい顔で聞こえない声でそう言った。

 

「―――ご来場の皆様はファールボールにご注意ください―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 ハインが審判から新しいボールを貰う。

 そして陸雄に送球した。


(ハイン。そろそろ決め球か?)


 陸雄が座り込んだハインを見る。

 打者が構え直す。


(―――ああ、またここに投げろ)


 ハインがサインを送る。


「肝の据わったリードだことで―――」


 陸雄がそう呟いて、頷く。

 そのままセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中に真っ直ぐボールが飛んでいく。


(早いが打てる! タイミングよく―――)


 三番打者がフルスイングする。


(―――芯に当てる!)


 打者手前でボールが左に大きめに曲がって、小さく落ちる。


「何っ? カーブか?」


 打者がバットの下を通過するボールで空振りする。

 左斜めに吹く強風を利用した―――高速スライダーだった。

 ハインのミットに収まる。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに139キロの球速が表示される。


「しゃあ! ハイン! ナイスリード!」


 陸雄が声を上げて、無邪気にはしゃぐ。


「リクオ。ボール投げるから早く捕って、構えるんだ」


 ハインが注意して、陸雄に送球する。




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