第311話

 陸雄がボールを受け取り、目をキラキラさせる。


(やっべー! 弱くなったが、まだ強風とはいえ―――球速が増してるのが最高に良い! このままアウト一つ取って、攻撃だ!)


 三塁の張元がその様子を見る。


(まぁ、次は俺っちのチームのキャプテンが返してくれるだろうから―――ぬか喜びしてとけ……岸田とかいう奴。―――そのための盗塁だ)


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 

「淳爛高等学校―――四番―――」


 四番打者が打席に立つ。

 相手校の監督がサインを送る。

 四番打者が頷いて、構える。

 ハインがサインを送る。

 頷いた陸雄がセットポジションで投げ込む。

 四番打者がジッと見る。

 指先からボールが離れる。

 真ん中低めにボールが飛んでいく。

 タイミングを合わせて―――四番打者がフルスイングする。

 打者手前でボールが半個分落ちる。

 バットの芯のやや上でボールを当てる。


(―――初球打ち!)


 陸雄が驚く。

 ボールは右中間にやや高めに飛んでいく。

 センターの灰田が走る。

 張元が三塁からホームベースに向かう。

 打者もバットを捨てて、一塁に走る。


「トモヤ! ひとつだ!」


 ハインが声を上げる。

 駒島は眠そうな目で自分の方向に飛んでくる―――そのボールを見る。


「どけぇ! キモデブ!」


 灰田が走りながら怒鳴る。


「ひぃ! ワシにケンカを売っちゃう系か? ワシの親は大森高校の教育委員会の……」


 駒島がブツブツ言っている間に、頭上にボールが通過する。 

 

「くそう! 長野のキモデブのせいでボールが後方に!」


 灰田が落ちて、フェアになったボールを追いかける。


「俺っちが―――」


 張元がホームベースの近くに来る。


「―――点をもらうぜ!」


 そう言って、ホームベースを踏んでジャンプする。

 この瞬間―――淳爛高等学校に11点目が入る。

 四番打者も一塁を蹴り上げる。

 そのまま二塁に走っていく。

 灰田がボールを拾う。


「ふたつです! 灰田君! ひとつじゃないです!」


 星川が声を出す。

 灰田が送球する。

 セカンドの九衛が塁を踏んで、捕球体制に入る。

 ボールが捕球する前に―――。

 四番打者が二塁を踏んだ。

 そして九衛のグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 ランナー二塁で点差が2点差に近づく。


「キャプテン! ナイスバッティング! 俺っちが楽に戻りましたよ!」


 張元がそう言って、二塁に手を振る。

 四番打者はガッツポーズを取る。

 セカンドの九衛が無言で送球する。

 パンッという音を立てて、陸雄が捕球する。


(痛ぇ……投げる球が強めだつーの! 九衛の野郎め―――キレんなよ。本塁打じゃなくてマシだろ? キレたいの打たれた俺だつーの!)


 陸雄が九衛を睨んで、そのままキャッチャーボックスを見る。


「チェリーのくせに俺様に安い喧嘩を買わせるな! 俺様の気品が落ちる」


 後ろの九衛の声を気にせずに、集中する。




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