第309話


 陸雄がキャッチャーボックスを見る。


「淳爛高等学校―――二番―――」


 二番打者が打席に入る。

 相手の監督がサインを送る。

 二番打者が頷いて、構える。

 ハインがサインを送る。


(―――リクオ。配球変えるぞ)


 陸雄が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 相手の打者がスイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちていく。

 バットに当たらずにハインのミットに収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに123キロの球速が表示される。


(フッ、変化すればボールコースに入るカーブをここまで利用するとはな。―――左に吹く風でギリギリのボール球にさせ、ストレートと思わせてカーブをスイングさせる。それでストライクカウントを取る)


 ショートの紫崎が関心する。

 九衛が構えたまま、紫崎に話す。


「俺様なら打てるが―――紫崎はどうだ?」


「フッ、俺は三回に一回なら打てるな」


「チェリーの馬鹿。次打たれるかもしんねぇから構えとけ―――」


 九衛の言葉で紫崎も構える。

 二塁の張元がそのやり取りに不思議に思う。


「なんなんだこいら―――この信頼してないのか信頼してないのか分からない距離間は? チームだろ?」


 張元がそうボヤいた後にマウンドの陸雄を見る。

 二番打者が構え直す。

 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、投球モーションに入る。

 そして指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。

 二番打者がピクリとバットを動かせ―――見送る。

 打者手前でボールが半個分落ちる。

 ハインのミットに収まる。

 ―――チェンジアップだった。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに122キロの球速が表示される。


「やっぱやや左に吹く風が押し出すように吹いてるから―――球速がいつもと違うなぁ」


 陸雄が呟いて、ハインから返球されるボールを受け取る。

 二番打者が構えを解かない。

 ハインがサインを送る、

 陸雄が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 ボールが内角高めに飛んでいく。

 相手の打者がスイングする。

 ボールが風向きにより、左にズレる。

 バットがボールよりやや上に振る。

 しかし速球で振り遅れる。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク! バッターアウト!」



 球審が宣言する。

 スコアボードに140キロの球速が表示される。


「制球が悪いけど―――風の力でこんな早くなるのかよ! しかも三振! しゃあ!」


 陸雄が声上げて、喜ぶ。


「―――リクオ。ボール受け取るんだ」


「ああ、すまんすまん。次いこうぜ」


 陸雄がそう言って、グローブを前出す。

 ハインが返球する。

 陸雄がキャッチする。


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