第306話

 捕手がサインを送る。

 真伊已が頷いて、投球モーションに入る。

 星川がジッと見る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。


(やっぱり来ましたか! ―――そこっ!)


 星川がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちていく。

 その位置に星川のバットの芯と先端の間に当たる。

 カキンッという金属音と共にボールがサード方向に飛んでいく。


(!? 高めのカーブを読まれていた?)


 真伊已が驚き、グローブを横に移動させる。

 ボールにグローブかかすめて、軌道が変化する。

 サード正面に来るボールがショートよりに低く飛んでいく。

 一塁の陸雄が走る。

 星川も一塁に向かってバットを捨てて―――走る。


「俺っちを舐めんなよ!」


 ショートの張元が横に飛ぶ。

 バウンドしたボールを捕球する。

 張元が立ち上がる時に―――。

 陸雄が二塁にスライディングする。

 不安定な姿勢のまま張元が送球する。

 星川がその間に一塁を蹴る。

 低く上がるボールがセカンドのグローブに収まる。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 星川が一塁に―――陸雄が二塁に残る。


「あっぶねぇ! もちっとで星川君の打球を無駄にするとこだった」


 二塁の陸雄が立ち上がる。

 セカンドが真伊已に送球する。


(二球目を読まれていたとは……偶然―――だと思いたいですね)


 真伊已がバッターボックスを見る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――七番―――センター、灰田君―――」


 灰田が右打席に立つ。


「んー、ちと風が弱くなり始めてきたな」


 そう言って、灰田がベンチ見る。

 中野監督のサインを見る。


(まだ風が怪しいからパームボールは投げてこない。カーブ系に警戒しとけ。ストレートは良く見て、打つかどうかコース次第で決めろ―――了解)


 灰田がヘルメットに指を当てる。

 真伊已が構え―――灰田も構える。

 捕手がサインを送る。

 真伊已が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 外角の真ん中にボールが飛んでいく。


(初球はストレート―――打てる!)


 灰田がスイングする。

 バットのやや下にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが低く飛ぶ。

 ランナーの陸雄と星川が走る。

 打者の灰田も一塁に向かって走っていく。


「俺っちを舐めるなっと言っただろ!」


 ショートの張元が低い打球を―――グローブを下に向けながら走る。

 地面にボールが落ちる直前―――。

 張元が捕球する。


「―――アウト! チェンジ!」


 審判が宣言する。


「がっはっはっ! チンピラ野郎は初球が低めのショートライナーかよ! まぁ、七番だから大目に見てやるか!」


 ベンチから九衛の大声がマウンドに響く。

 陸雄と星川たちがベンチに戻っていく。


「灰田君! 休憩時間ですから気持ち切り替えていきましょう!」


 星川の言葉に灰田が一塁からベンチに戻っていく。


「ここで打てておけば、坂崎に繋がって―――もう1点入ってたのによぉ。ったく―――俺はチャンスに弱いなぁ」


 灰田がボヤいて、バット取りに行く。

 坂崎が灰田のバットを拾う。

 灰田が坂崎に対して帽子を脱いで一礼する。

 坂崎が少し嬉し気に二本のバットを持って、ネクストバッターサークルからベンチに戻る。

 灰田や淳爛高等学校の守備陣もそれぞれベンチに戻っていく。

 五回裏は10対13で大森高校の優勢で終わる。




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