第279話

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。


(そして―――緩急をつけてこないで早めの―――)


 星川がバットをスイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちていく。


(―――カーブが来る!)


 星川がバットにボールを当てる。

 真伊已がハッとする。


「カーブが―――読まれて―――いた!?」


 カキンッという金属音と共にボールが一、二塁間に飛んでいく。

 二塁に走る陸雄が頭を低くして―――ボールをかわす。


「―――あっぶねっ! じゃあ、二塁に―――突っ込むぜ!」


 後方に位置していたセカンドが飛び出して―――ボールをグローブで弾く。

 セカンドが倒れ込むと同時に―――目の前にボールが僅かな回転を残して地面に転がる。

 ショートがセカンドが起き上がる前にボールの位置に走る。


(二塁は諦めて、星川君の向かう一塁アウト狙いか? よっしゃ! 二塁はいただきだ!)


 陸雄が二塁に走っていく。

 サードがカバーで二塁に走っていく。

 バットを既に捨てた星川が一塁に走っていく。

 ファーストが慌てて、一塁を踏んで捕球体制に入る。

 セカンドがショートにボールを片手で浮かせる。

 浮かんだ球をショートが素手で掴み―――送球する。

 その間に―――陸雄は二塁を踏む。

 ファーストにボールが入る前に―――。

 星川が一塁を蹴り上げる。

 グローブにボールが収まる。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 スタンドから歓声が聞こえる。


「同点どころか……逆転のランナーまで出たぜ。真伊已!」


 陸雄が嬉しそうに笑顔になる。

 

「僕も通用するようになってきているって―――実感できる! メジャーリーガーへの一歩を着実に踏んでいるんだ!」


 星川がウキウキと独り言を言いながら、一塁に戻る。

 ファーストが真伊已に謝罪して、送球する。

 真伊已はぎこちなく頷いて、キャッチャーボックスを見る。


(二球目は内角のカーブだったとは言え―――外角のストレートと同じ速度で投げるからですよ?)


 真伊已がつぶらな瞳で怒りを捕手に見せる。


(真伊已……悪い。六番だから油断していた。次からは大丈夫だ。絶対に―――アウトを二つ取らせる)


 捕手が申し訳なさそうに頷く。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――七番―――ピッチャー、灰田君―――」


 灰田が右打席に立つ。



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