第263話

 六番打者が一息ついて、構える。


(落ち着け。二球ともストレートだ。コントロールは悪いタイプだし、慣れれば打てるんだ)


 ハインが返球する。

 灰田がキャッチする。


(なんとかツーストライクだぜ。緩急付けたけど、次どうするよ?)


 灰田の疑問にハインが迷わずにサインを送る。

 灰田が頷いて、投球モーションに入る。

 六番打者がジッと見る。

 指先からボールが離れる。

 内角真ん中に真っ直ぐボールが飛んでいく。


(外角じゃないだと―――! 早い!)


 六番打者が振りそびれる。

 ボールがハインのミットに収まる。

 ボールはストライクゾーンギリギリに入っていた。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに128キロの球速が表示される。


(あぶねー、暴投でもいいから、内角に全力ストレート投げろって賭けに出るよなぁ―――ハインすげぇわ)


 ハインが返球する。


(やっとアウト一つだ。けど、心臓バックバクだな)


 そう思った灰田がキャッチする。


「淳爛高等学校―――七番―――ピッチャー、真伊已君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 左打席に真伊已が立つ。


「ハインさん―――彼にクイックを教えたのは賢明ですね。ウチのランナーはクイックを警戒するので、効いていますよ?」


 真伊已がハインを見て、話す。


「教えたのはオレじゃないさ。ナカノ監督だ―――」


 真伊已が灰田を見て、バットを構える。


「ほう……あの兵庫四強の名将がそちらに来ただけで、チームの士気やムードがこれほどまでに変わるとは―――是非名将の指導願いたかったものです―――」


 真伊已がどこか残念そうに呟く。

 ハインが無言でサインを送る。

 灰田が頷く。


(俺が投手ならどこに投げるか―――灰田さんは残念ながら制球が甘いですね)


 真伊已が構える。

 灰田の指先からボールが離れる。


(やはり投げるのは―――)


 真伊已がバットをフルスイングする。

 外角低めにボールが真っ直ぐ飛んでいく。


(―――ここですね!)


 バットにボールを軸上に当てる。

 ボールが低めに飛んでいく。


「初球打ち! くっそ! 届かねぇ!」


 ぼやいた灰田の左方向にボールが通過する。

 真伊已が一塁に走っていく。

 一塁ランナーが二塁に向かう。

 坂崎が捕球体制に入る。

 だが―――腹にボールが当たり、地面に転がる。


「い、痛たた…………拾わなきゃ」


 坂崎が目の前に落ちたボールを拾って、二塁に投送球する。

 セカンドの陸雄が捕球する。

 すでに二塁にランナーが止まる。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 真伊已が一塁を踏み終えて、ランナーが一、二塁に残る。


(ハインさんのリードは俺の持論も含めて初球は計算済みですよ―――俺が投手なら捕手に対してどこに投げさせるかもね)


 真伊已が通過した一塁に戻っていく。


(まぁ、アドバイスもチームにしたいですが―――理論は解っていても打てない時もありますしね。うちの打線は余計なことを言うと集中できないですし、説明できないのが残念だ)


 そんなことを考えながら、真伊已が打席をじっと見る。


(俺が説明できなくても体でわかるのがうちの打者ですし―――この回で追加点は望めますか―――)


 陸雄が灰田に送球する。




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