第262話

 ハインがサインを送る。


(打たれても―――気にすんな―――っと)


 灰田が頷いて、投球モーションに入る。

 五番打者がバットを短く持つ。

 指先からボールが離れる。

 ボールは外角の真ん中に飛んでいく。

 相手の打者がスイングする。

 バットの先端にボールが当たる。

 カコンッという音でピッチャーとキャッチャーの中間にボールが転がる。


「っち! ピッチャーゴロか―――ハイン動くな! 俺が捕る!」


 灰田が前に向かって走っていく。

 相手の打者が一塁に走っていく。灰田がグローブで転がるボールを捕りに行く。

 グローブにボールが入り、利き手でボールを持ち変える。

 そのまま一塁に振り向く。

 相手の打者はまだ一塁を踏んではいない。

 灰田がボールを握って、テークバックする。

 軸足一本でバランス良く真っ直ぐ立った姿勢で―――投げるときに逆方向に力をためる。

 そしてボールを投げる。

 星川が塁を踏んで、捕球体制に入る。

 相手の打者が塁を通過する。

 投げられたボールはその後に星川のグローブに収まる。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。


(僅かに反応するのが遅かったか―――打たれないと思ったんだけどな)


 一塁ランナーが涼しい顔で塁を踏む。


「灰田君。今のはしょうがないですよ。次に切り替えていきましょう!」


 灰田が星川からボールをキャッチする。


「わーたよ。次は抑えて見せるぜ!」


 灰田がマウンドに戻って、一息つく。


(打たれたとしても、ハインのリードを信じよう―――)


「淳爛高等学校―――六番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 六番打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。

 灰田がゆっくり頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが真っ直ぐ飛んでいく。

 相手の打者がスイングする―――が、バットの上部を掠る。

 ストレートボールがハインのミットに収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに107キロの球速が表示される。

 ハインが返球する。


(最初は遅めで良いってリードだけど、危なかったなぁ。結果オーライか―――サンキュ、ハイン)


 灰田がボールをキャッチする。


(で、ハイン―――次はどうする?)


 灰田が構える。

 相手の打者が集中する。

 ハインがサインを送る。

 灰田が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが真っ直ぐ飛んでいく。


(高いコースだな―――ボール球になる)


 六番打者がそう思い、バットを振るのを止める。

 打者手前でボールはやや右下に落ちる。


(何っ! 変化球か?)


 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 球速が表示される。

 スコアボードに126キロの球速が表示される。


(トモヤの制球力の僅かな悪さを利用して、ボール球からストライクに変えたが、あまり良い手でもないか―――)




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