第241話

 真伊已がバットを捨てて、一塁に走る。

 サードよりのボールを坂崎がグローブで捕りに行く。

 しかし―――。


「あっ―――」


 坂崎が声を漏らす。

 バウンドしたボールはグローブには入った。

 だが―――グローブに入ったボールはそのまま落球した。

 その間に真伊已が一塁を通過する。

 誰が見てもエラーだった。

 慌てた坂崎がボールを捕りに行き、一塁に送球する。

 星川が捕球する。


「―――セーフ」


 塁審が宣言する。

 スコアボードにエラーが記録される。

 一塁側のベンチが騒ぐ中で―――監督が声を上げる。


「投手が目立っているが……やはり大森高校は攻撃重視よりのアウトサイドベースボールか―――」


 相手校の監督がメンバーに聞こえるようにそう言う。

 一塁の真伊已が星川に聞こえる範囲で話す。


「灰田君でしたっけ? 彼のカーブのキレは俺より下ですね。―――こうなると詠んでましたよ」


「真伊已さん。勝負はまだ始まったばかりですよ。灰田君は今もこれからも成長します。グングン伸びるんです!」


 そう言って、星川は灰田に送球する。


「その前に―――この夏で今はそれを摘み取らせていただきますね」


 真伊已がつぶらな瞳で、どこか冷酷そうに星川に言い終える。


「星川。わりぃ! 俺が打たれたせいだ。坂崎のエラーは俺の責任だぜ」


 大声で声を出した灰田がグローブでキャッチする。

 セカンドの陸雄が声を出す。


「灰田! ツーアウト、ツーアウト! 抑えに行こうぜ! 坂崎もエラーくらい気にすんなよー。援護も投球も責任半分半分だぜ「!」


「う、うん!」


 坂崎が気持ちを切り替える。

 灰田が一息つく。


(やっぱ、ピッチャーってのは試合だと独特の味があるな。練習の時もそうだが―――野手やってる時と全然違うな。昔の感覚取り戻さねーと―――)


「淳爛高等学校―――八番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 打席に八番打者が立つ。

 ハインがサインを送る。


(トモヤ。クイックモーションで投げるから、盗塁を意識するな。牽制は無しで投げてこい)


 灰田が頷いて、打者と同じく構える。

 そして投球モーションに入る。

 指先からボールが離れ―――真っ直ぐ飛んでいく。

 相手の打者がやや下にスイングする。

 カーブと踏んでのスイングだった。

 しかし―――打者手前でもボールは変化しない。


「―――なにぃ!」


 八番打者の言葉と共にボールが軸上に当たる。

 カコンッという音と共にボールが浮き上がる。

 内野フライのボールだった。



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