第220話
「中野、あんま俺のピッチングに期待すんなよ。試合で投げるの三年ぶりなんだから、三年間頑張った奴に負けっぱなしあると思うぜ?」
「チンピラ野郎。なっさけねぇこと言うんじゃねぇよ。俺様が前にお前んちで言った事忘れたか?」
「九州の秀才投手が三年サボって久しぶりにやったら、センスのある投手に戻っていくというだけのことだ。リボルバーのことは九衞から聞いている」
中野監督がそう言って、灰田の顔近くまで顔を近づける。
「朋也様、気にせずに2イニングまでで良い。チームの為にも私の未来の為にも投げてこい」
「わ、解ったから、投げるよ。ハインのリードもあるし、お前らなら点くらい取ってくれるからやってやるって! 中野顔近い。息当たるって―――つうか未来っ!? なんか今さりげなく不穏な事を言わなかったか?」
中野監督が無言で笑みを浮かべて、灰田から離れる。
「では今日はこれで解散っ! 試合までの日が僅かしかない。気を引き締めていくように!」
「「ありがとうございましたっ!」」
メンバーが帽子を下げて一礼し、今日の練習が終わる。
大城と駒島は礼をせずに鼻をほじりながら私服のままさっさと帰っていった。
※
練習後のメンバーの帰り道―――。
いつもの下り坂を降りて行く中で陸雄が後ろからみんなに話す。
「いよいよ次は三回戦だな。しかも投手はローテーションで三人分だ。面白くなってきたな」
陸雄がそう言うと前列を歩いている九衞が振り向かずに答える。
「また古川マネージャーのパンツに特攻かけて、水被って入院すんなよ?」
「はっ? そんなん二度としねーよ! 見てろよ? 二回戦の分、俺がマウンドに立ったら―――キッチリ抑えてやからな?」
「フッ、投手よりもサブポジの練習多めだったろ? 今回から陸雄は投手以外にそっちを重点的に守れ」
前列を歩く紫崎の言葉で、怒り気味だった陸雄も少し大人しくなる。
「お、おう。わーたよ。俺が二刀流ってこと忘れんなよ? 打つときは打つんだからな?」
「フッ、期待している―――」
「なぁ、紫崎。野球は大事だけどよ。夏休み入ってんだべ? 海は無理だけど、夏祭りとか行きてよーなぁ」
九衞の隣を歩く灰田が隣の紫崎に話しかける。
代わりに紫崎の後ろの真ん中の列にいる星川が興味を持ったのか―――答える。
「まぁ、僕も夏祭りは、花火が毎年綺麗な河川敷のお祭りに行きたいですね。例年通りだと、出店のリンゴ飴とたこ焼きと焼きそばが美味しいんですよ。あっ、チョコバナナも美味しいんですよねぇ」
「おおっ。それはオレも是非行きたい。射的は任せてくれ」
陸雄の隣を歩くハインが興味津々なのか、目をキラキラさせている。
「ハイン、覚えてないのか? ガキの頃に乾とチームのみんなと一緒に夏祭り行ったろ? お前だけ迷子になって、探したら焼き鳥ばっか食べてチャリンコ置き場で座り込んでたじゃん?」
陸雄が気だるげに話す。
「へぇ~。そんなエピソードあったんだ~。ていうか、今でも僕達ガキだと思うよ~?」
後列の陸雄とハインの左端を歩く松渡がツッコミを入れる。
「はじめん、揚げ足取んなよ。高校生はアダルトなガキだから、ガキであってガキじゃないの!」
陸雄がそう言い返す。
前列の灰田が呆れる。
「アダルトなガキって何だよ? 新手のパワーワードじゃんか。色々突っ込みてぇなぁ……」
「止めとけチンピラ野郎。チェリーは言葉にも自責点にも責任取れないオワコンな馬鹿だから、突っ込むだけ無駄だ」
そう言って九衞が灰田の肩を叩く。
陸雄が二度目にムッとする。
真ん中の列の坂崎があたふたする。
「なんだと! 九衞! 今日やけに絡むなぁ! ってか、お前らいつの間にか仲良くなってるんだよ? 村八分にするか気かコラッー!」
「だ、ダメだよー! こ、ここで喧嘩したら試合に出れないよ! そ、それに試合以外に夏休みの宿題もあるんだよ?」
真ん中の列を歩く坂崎が仲介して、この場をいさめる。
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