第218話

「メンソーレ。当たった箇所は前に比べれば痛くなくなったし、次の試合には出るかもさー」


「フッ、また試合で同じ個所に当たったら、そのファニ―ボーンがご臨終だな」


 紫崎が涼しい顔でそう言った。

 ハインが大城のデッドボールの箇所を黙って、ジッと見る。


「メンソーレ! その時はまた湿布を貼って貰って、また次の試合出るサー」


「デッドボールを甘く見ないで! 次の試合に出て―――怪我を軽く見たプレイミスで死ぬかもしれないんだよっ!」


 大城の呑気な言葉に古川が怒鳴る。

 みんなが感情的になる古川に動揺する。

 錦が理由を知っているのか、中野監督に挙手する。


「監督―――発表前にちょっと良いですか?」


「なんだ? 発表はすぐ終わるぞ。ここで話せ」


「場所を少し変えてください。陸雄君達には次の試合に集中して欲しいんで、理由をそこでしっかり話すので頼みます」


「わかった―――奥に行くぞ。お前達ちょっと待っていろ。古川、冷静になれ」


 中野監督の言葉で古川は掠れ声で返事をして、ベンチに移動する。


(やっぱり何かあんのかな? 詮索しても良くないか。けど―――古川さんがあんなに感情的に大声で怒鳴るなんて)


 陸雄がベンチに座って、ジュースを飲んでいる古川をチラッと見る。

 古川は飲み途中の缶を両手で握って、膝の上に置く。

 その表情は暗く沈んでいた。

 やがて錦と中野監督がグラウンドに戻って来る。


「えー、改めてスタメンを発表する。変更点が一つある。大城」


「メンソーレ! 何サー?」


「お前はスタメンの予定だったが、今回の試合は控えだ」


「メンソーレ! 代打ってことかサー?」


「代打も無しだ。三回戦はベンチに居ろ。それから徹夜はしないように」


「成程。このワシの活躍に集中したという采配か?」


 駒島の言葉にそれは無いっと陸雄達が無言で意思疎通する。


「いや、怪我の事もあるから、サードは坂崎に二回戦同様やってもらう」


「ぼ、僕ですか? あ、ありがとうございます」


 坂崎がまた試合に―――しかも最初のイニングから参加できるので舞い上がっていた。


「メンソーレ! デッドボールは俺の鋼の肉体で回避できたサー」


「歩いているだけで異常が起こったりして~」


 松渡が横目でニヤリっと笑って、そう言う。


「メ、メンソーレ! 怖いこと言うなさー。歩けなくなるさー」


 大城がビクビク震える。


「大きなケガも無いのに歩行不能になるほどのデッドボールの後遺症って……あんまり聞いたことないですよ。あるんですかねぇ?」


 星川の冷静な突っ込みに九衞がリラックスして、気だるげに答える。


「俺様もそう思うが、まぁ無くはないかもな。俺達もデッドボールには気をつけましょうかねぇ」


 ハインが表情をあまり変えずに、坂崎にやや嬉しそうに話す。


「カイリ。良かったな。捕球も良くなっているし、サードでイレギュラーボールの予測も実戦で対処できる」


「う、うん。し、紫崎君と一緒に電車で話してくれた後逸への対策も守備練習で生かされる時だし、頑張るよ」


 坂崎は練習も含めて捕球も良くなってきている。

 サブポジでサードも出来るようになれば、来年は守備に置いて一人前になるだろう。

 メンバー達が良かったなっと坂崎を称える。


(確かにスポーツで何か事故があって―――異常なしでも、突然の痛みで死の危険がある。準備体操はそのためにあるんだし)


 陸雄が無言で腕を組んで、考え込む。



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