第217話

「ああ、そうだ。チンピラ野郎」


「何だよ?」


 灰田が素振りをしながら、同じく素振りを終えるごとの九衞に返答する。


「またリボルバーやって、負けても同じメニューで300円だからな。足りない分は十日五割(トゴ)で貸し付けてやるよ」


「どこの闇金だよ……俺大人になったらぜってーに借金しねーって、心の中で今決意したわ。……投手として専念するしよ」


 灰田がそう言って、素振りを再開する。


(チンピラ野郎にああは言ったが、投手メインは現状じゃ厳しいだろう。登板でのメンタル面でもこいつは不安があるしな。念のために保険として、焚きつけておくか)


 九衞も素振りを一度終えて、答える。


「まぁ、君が投手やってたら打たれまくって、自責点と言う借金するんだろうけどなー。ププッー♪ 代わりに野球で借金するなんて、無様~♪ その日のうちに金の代わりに点を返さないと一日三割(ヒサン)だねぇ~」


 その言葉に灰田がバットを強く握って、キレ気味に睨む。


「腹立つわー! この強面野郎、マジで腹立つわー! 上手いこと言った感で良い素振りしやがって! ぜってぇに守備でも投手でも―――打席でも活躍してやっからなー!」


 力強く言った灰田の強い素振り音がブンッと響く。


「おっ! 朋也様。良いスイングだな。よし、次は特別に朋也様に打席に立たせてやろう」


 今の二人の話を聞かなかったのか、中野監督が灰田を次の打席に立たせた。


「古川マネージャー! 変化球お願いしまっす!」


 灰田が気合を入れて、打席に立つ。

 九衞が素振りをしながら、ニヤリと笑う。


(チンピラ野郎―――お前にはまだハングリーさが足りてねぇからな。俺様がこうやって嫌々煽ってやるしかないな)


 灰田のやる気を出させるには他にも方法があるはずだが、そんなことを考える九衞だった。



 練習終了後の夜―――。

 中野監督がメンバーを整列させる。


「練習ご苦労。では、三回戦のスタメンをここで発表する」


 発表前に駒島と大城が制服姿でやって来る。

 陸雄達が何かを言う前に大城が話す。


「メンソーレ。三回戦まで進んだから来てやったサー 発表聞いたら帰るサー」


「ふんっ! このワシの貴重な時間を減らしている報いを試合で返してもらおうか」


 陸雄がブレないこの二人に呆れてしまう。


「チンピラ野郎。この長野のキモデブと宮古島の沖縄マントヒヒ分担して袋にするか?」


九衞が灰田を見て二人に聞こえるようにそう言った。


「―――袋ねぇ。ここ山がねぇから、殺った後に死体埋められないぜ? シャベルとかは用務室にあるだろうけどさ」


 そう言った灰田が二人にガンを飛ばす。

 駒島と大城がそれを聞いて、汗を流しながらガタガタっと震え始める。

 殺気に対して怯えているようだった。


「二人とも止めた方が良いですよ。彼らなりに人生頑張っているんですから、応援しましょう」


 星川が笑顔で爽やかにそう言う。


「星川君って、何気に酷い事いうよね~」


 松渡の言葉で駒島と大城は汗を流しながら苛立ちと怖さでプルプル震えていた。


「せ、先輩方とりあえず落ち着いてください。な、中野監督がスタメンを発表しますので―――」


 坂崎が申し訳程度のフォローをして、二人は息を整えながら無言で押し黙る。

 それなりに苛立ちこそ見えるが冷静さを取り戻しつつあるようだ。

 中野監督がわざとらしく咳払いする。


「それではスタメンを発表するが、その前に―――大城、診断書を見る限り問題ないな?」


「メンソーレ! わからないさー。けれども試合の終わった後でも、なんかいつもどうりに生活はしてるサー」」


 その言葉に古川が少しだけ離れて、大城に話す。


「本当に大丈夫なの? 身体に何か異常はない? 脳とか時々ズキズキしたりしない?


 その古川の表情は少し心配そうに見えた。


(二回戦の時もそうだったけど、古川マネージャー……何かデッドボールでトラウマでもあるのかな?)


 陸雄のなんとなくそんなことをぼんやり考えた。



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