第216話

 途中から来たのか鉄山先生が陸雄達の場所にやって来る。


「岸田。向上心があるのは若い証拠だ。でもその前に体を休めて、水分補給だよ」


 そう言って、鉄山先生はドリンクを渡した。


「先生―――ありがとうございます」


 陸雄がアクエリアスを飲んで、移動してベンチの近くに置く。

 戻って来た陸雄に―――中野監督はメンバー達にも聞こえるように声を上げる。


「シートノックが終わったら―――三回戦の変化球対策として古川マネージャーの投げる相手の変化球を打席で打つ練習だ。ローテーション練習だから空いた時間は素振りとキャッチボールをしておけ」


「「はいっ!」」


 メンバー達はそう言って、野手の練習場所に走って行く。



 灰田と九衞と坂崎。

 この三人が投手と打者と捕手として投球練習場に集まる。

 リボルバーだった。


「さっさと済ませるぞ。チンピラ野郎」


 九衞がバットを構える。

 灰田がボールを握る。


「は、灰田君。いつでも投げて良いよ。な、投げる球は解ってるし、ストレートなら捕れるから」


 捕手道具を身につけた坂崎がミットを構える。


「じゃあ、全力ストレートで投げるぜ」


 灰田がふぅっと息を吐いて、投球モーションに入る。

 九衞がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 ボールは真ん中に飛んでいく。

 タイミングを合わせて、九衞がスイングする。

 バットの芯に当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが遠くに飛んでいく。


「くっそぅ! 打たれちまった!」


 灰田がガックリと肩を落とす。


「スピードガンで最初の頃に測った最大球速が128キロだったな。まぁ、チンピラ野郎にしては上出来だ」


 九衞がバットを下ろす。

 灰田は押し黙る。


「帰りの駅前に新しく出来たコンビニでアクエリアス130円と残りの税込みの170円でモコモコ堂の特大クリームパンな。俺様の貴重な数分間を300円で済ませてるだけ良心的と思えよ」


「…………わーたよ。陸雄の球速は137キロではじめんの球速は132キロ……俺だけ投手だったのに負けてるなんて―――」


「チンピラ野郎。松渡には打率がダメで野手の守備がイマイチ。チェリーは外野手は論外だから、お前はそれを補ってる」


 九衞の言葉を聞きながら、坂崎が立ち上がる。

 灰田がその言葉で少し肩の力を抜く。


(こいつなりにフォローしてくれてんのかな? 普段はムカつくけど、観察眼もスバ抜けてるから説得力ある事は言ってるんだろうな)


「―――わかった。俺に出来ることを他でやるよ」


「古川マネージャーの打者練習あっから、早くバット持てよ。待っている間は空いている奴は素振りとかだろ?」


 三人は古川が立っているマウンドの打席にバットを持って、走る。


(俺はもう九州の秀才投手じゃないんだ。大森高校の投手として―――選手として、新しく生まれ変わってやってやるぜ)


 灰田がバットで素振りをしながら、気持ちを高めた。




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