第201話

(面白そうだからもうちょっといじってみるか)


 灰田がハイン達に新たな話題を振る。


「なぁ、陸雄。電車の事で言っときたいことあんだけどよ」


「何だよ? もしかして今まで電車に乗ったこと無いのか?」


「ちげぇよ、アホ。お前らの乗る電車でケンタッキーを車内で食べる髭のおっさんが出没してるって、ネットニュースで話題になってる」


「はぁ? なんだそりゃ? どうでも良さ過ぎて気が抜けるどころか、気が滅入るわ。アホな話題振るなよ……」


「トモヤ。オレは帰りの電車でタカシと一緒に見たことがある。クラスメイトの噂では平日の昼から夜中に出没するらしい。日曜は見かけないそうだ」


「えっ? マジ? 情報じゃあ週四回くらい出現するらしいんだけど、ケンタッキーの髭のおっさん……普段働いてんのかな? 一部の書き込みでそれも含めて話題になってんぜ? どっかの資産家だとか、締め切りから逃げている漫画家説もあるぜ」


「ハイン。そんな灰田のくっそどうでも良い話題にいちいち食いつかなくて良いから―――明日のことに集中しとけ。それと灰田―――そんな話題無理に広げるな。後そんな暇人達のネット情報を真に受けるな。そのうちアホになるそ?」


「リクオ。しかしケンタッキーはフライドチキンより食べてみたい」


「……電車で?」


 陸雄が声のトーンを少し落として、脱力する。


「いや、家で持ち帰って、思う存分たくさん食べたい。コンビニには無いんだ。ケンタッキー店が二ホンで年々減っているから、どこにあるか知りたい。手掛かりは電車でのケンタッキー食べる髭のおっさんだけなんだ……」


 ハインがやや深刻そうな表情で答える。

 陸雄が呆れた顔でハインをじっと見る。


「リクオ。―――なんだ?」


「それは普通にネットで店を調べて買ってこい。そんなオッサンを手掛かりに独自調査するなよ。なんためのスマホだっつーの!」


「調べたんだが、この近場だとドライブスルーしかない。出来るだけ近くじゃないと毎回買えんしな。それに新しい店舗がオープンしたかも―――電車でケンタッキー食べる髭のおっさんの今後の出没駅で気になる」


 灰田がハインの肩に手を乗せる。

 話題を出した灰田がどこか嬉しそうに話す。


「最近じゃフェイクでケンタッキーの髭のおっさんを真似たパチモンも電車でエンカウントするらしいから、フライドチキン食べる甚平(じんべい )着た無精髭の中年と間違わないようにな」


「任せろ、トモヤ。ネットとクラスの情報では同じ店だということで一致している。問題は距離と運賃と肉の値段だ」


「肝心なのは俺ら高校生の財布に優しいかどうかの問題だもんなぁ。あっ! タマゴン君ナイトバニラアイスのおまけ食玩をオークションに出して、その金でケンタッキー買いに行くってのはどうだ?」


「トモヤ、それは名案だな。応用力があって良いじゃないか、それは試合のピッチングやプレーにも生かされるはずだ」


「ほんとかい? そいつはちょっと新感覚だな」


「ああ、レボリューションだ!」


 陸雄が無言で二人の会話に参加せずに頭を抱える。


「はぁ~……お前らの今の会話レベルに突っ込む気も失せるわ……」


 ため息をついて、ふと顔を上げる。


(なんなんだろうな……灰田とハインのこの謎の連帯感は? 練習以外で話さないと思ってたら、しっかり見えないところで話してたんかな? バッテリーとして成長してるのか? いや、考えすぎか―――)


 そんなことをふと考えていると駅に着く。


「おっ、もう駅か。んじゃあ、電車でマジモン見つけたらメッセで教えてくれよな!」


「―――わかった。ちょっと乗る車両を今回は変えてみる。トモヤ、出現したら連絡を入れる」


「はぁ……お前らが野球以外で心底心配になって来たわ……。マジでこんな調子で乾達に勝てるか心配になんだろうが……」


 駅前で陸雄のやる気の尽きた声と共に星空に流れ星が流れる。



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