第199話
※
ハイン達の放課後の罰練習が終わった後―――。
私服の二年生達が無言で現れて、トンボでグラウンド整備を行う。
「岸田達はもう帰って良い。ハイン。朝になったら車で家に来てやるから偵察の準備をしておくように―――」
中野監督の言葉で三人の残りのメンバーが練習を終える。
更衣室で灰田と陸雄とハインの三人は着替える。
「ったく、俺だけ私罰で走らされるとかやってらんねぇぜ。強面野郎は煽り散らすしさ」
灰田が愚痴りながら、制服に着替える。
「トモヤ。レンジの事は気にするな。オレは明日は練習に出れないが投手以外のデータをしっかり取って来る」
ハインがそう言いながら、制服に着替える。
「頼むぜハイン。真伊已の奴以外に強力な投手がいたら試合前に教えてくれよな」
陸雄が闘志むき出しで、制服に素早く着替える。
「なんだよ。陸雄。淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)のその投手と知り合いなのかよ?」
灰田が制服に着替え終わる。
「ああ、知り合いと言うか。二回戦の試合前に下らねぇ盤外戦仕掛けて来たんだよ。あんま思い出したくないから試合でしっかり晴らすぜ」
その陸雄の静かな怒りにハインは無言で制服を着替え終える。
「陸雄。お前だけが今回投げる訳じゃねーからな。中野も言ってたけど―――今回の先発は俺なんだし、三回戦前までの練習でセカンドはお前がその間野手として守るんだからな?」
灰田がスポーツバッグを持って、話す。
「ああ、解ってるって―――九衞はその間は灰田のセンター守んだろ? その後の中継ぎは俺でリリーフははじめんでしょ? ったく、完投であいつを負かしてやりたいぜ」
「今度の試合では後半は守りに入る作戦だ。リクオはハジメの登板した回からベンチだ。その内に点は出来るだけ取っておきたい」
ハインがスポーツバッグを持って、ドアを開ける。
三人が更衣室を出て行く。
「明日は俺の初登板だ。プレッシャーかかるぜ!」
灰田が握り拳を両手で作る。
「俺とはじめんが後半は投げてくから、気楽にやっとけ。ハインの配球なら制球力さえあればだいたい抑えられる」
陸雄がそう言って、灰田の握り拳に手を添える。
「バッテリーの信頼ってやつか。お前とはじめんが投げたんだし、次は俺の番か―――それはそうとして…………」
「何だよ。灰田? まだ心配事か?」
「いや、明日の偵察と女装大丈夫なのか? 問題にならないよな?」
灰田は不安げに更衣室の鍵を閉めたハインの背中に語りかける。
「トモヤ。安心しろ。アヤネマネージャーがしっかり女子に見えるくらい完璧にさせるっと、やる気を出していた」
「それはそれで怖えよ」
陸雄が灰田の代わりにやや引き気味に答える。
灰田がため息をついて、キレ気味に空を見上げる。
「っち! こうなったのも今回だけ情報不足っていうヘマのせいだよな。―――あの長野のキモデブと宮古島の沖縄マントヒヒの自己責任だっつーの!」
二人はそのことについては言及せずに黙って、ボール磨きをしている中野監督に鍵を渡した。
「よし、お前達はもう帰れ。寄り道するなよ。ハインは朝早くに来るから早寝するように―――」
中野監督がそう言って、陸雄達を帰した。
「はぁ、マジで明日が心配だわ。ハイン、バレないように頑張れよ。灰田も早く一緒に帰ろうぜ」
ハインが頷いた後で、隣にいる灰田に歩きながら―――話題を変えて話す。
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