第196話
星川が体操しながら、古川に質問する。
「古川マネージャー。相手の投手の変化球データは揃っているんですか?」
「うん。ただ投手以外に他の選手のデータが無いから、明日ハイン君と偵察に行って来るからその日だけは打席練習無しね」
九衞が松渡と合同でストレッチをしながら、質問する。
「次の淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)って、野球関係者や男子は偵察禁止じゃなかったすか?」
「九衞~。県外選手なのによく知ってるね~。誰から聞いたの~?」
「いや、テスト一日目終了後にネットでググったら出た」
九衞が間髪入れずにあっけらかんと答える。
灰田がそれを聞いて、呆れる。
「お前、テスト中にネットすんなよ。それじゃあハインは偵察出来ないじゃんか? 古川姉御、手詰まりですぜ?」
灰田が妙な九州訛りを入れつつ、坂崎のストレッチを手伝う。
古川が表情を変えずに真顔で、灰田の疑問に答える。
「だからハイン君に女装させて、打者の情報を得るの。それと灰田君、姉御呼びは止めてね。次呼んだら怒るよ?」
「「はぁ!?」」
メンバーが声を高く上げる。
「か、関節が痛いよ! は、灰田君。お、押しすぎだよ」
灰田が坂崎の背中を押しすぎて、坂崎が痛がっている声を聞いて位置を戻す。
ハインは既に知っているのか、黙っていた。
陸雄がハインのストレッチを手伝いながら、質問する。
「ハイン、良いのかよ? バレたら大問題だし―――お前の人生と言うか、名誉とかが傷つくぞ?」
「リクオ。安心しろ。既にメールで聞いているし、上手くやってくれるように古川マネージャーとナカノ監督がアシストしてくれる。俺はただ相手校の練習を見て、対策を練るだけだ」
「いやいやいや……! お前はそれでいいのかと心配しているんだよ。女装とか、校内で噂されんぞ」
「じゃあ、他のメンバーにさせるか? 例えばレンジとか」
「金髪―――殺すぞ」
ストレッチを終えた九衞が涼しい顔で殺気を出す。
「古川の予備の制服を着させるし、ウイッグっと化粧は念入りにしてやる。私のインプレッサで実家から相手校まで移動してやるからこの学校でバレることはない」
中野監督がそう言って、バットを地面に付ける。
「フッ、こればかりは全員の秘密と言うことだな。大会不参加にならないように黙秘しておこうぜ」
紫崎の言葉にハイン以外の一年メンバーがゾッとする。
「め、目立たないように偵察しないとね~。ハイン~。僕らの野球部の存続がかかってるから慎重に偵察するんだよ~?」
「解った。安心しろ、ハジメ。ベストは尽くす」
「ぜってぇ解ってねーだろ」
灰田がぼやく。
「灰田君」
「なんすか古川マネージャー」
「私、年上だけど姉御じゃないからね。そんな風に呼ばないでね」
「えっ? 俺そんなこと言ったっすか?」
「うん。ハッキリ言ったよ」
「うっす! 気を付けます。すっげぇ可愛いマネージャーの指導受けれて毎日幸せっす」
灰田が心にも無い事を言ったので、後々中野監督から追加の罰でグラウンドを走らされることとなった。
(古川マネージャーも乙女なんですねー)
不満を漏らす灰田を余所に星川が頬を緩ませて、筋トレ練習に入る。
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