第197話

 錦はその中で黙々と筋トレ練習を続けていく。


(そして錦先輩は相変わらずブレずに鍛錬してるっと。女装の時にちょっとだけ焦ってましたけどね。まぁ、校長の息子だし―――バレたら不味いのは錦先輩も同じか。さて、僕もメジャーリーガーになるために頑張らないと!)


 そう思った星川が筋トレに打ち込む。

 その後にメンバーの練習が始まった。



 練習合間の休憩時間前―――。

 古川が打席練習の投球をしている間に中野監督が炊飯器で米を炊いていた。

 打席練習が一通り終わった後に中野監督がシートノックをする時間になる。

 久しぶりにマネージャーの仕事をする古川はおにぎりを握っていく。


(もう一人くらいマネージャーが入ればみんなにご飯くらい毎日出せるのになぁ)


 そう思いながら、手慣れた仕草でおにぎりを握っていく。

 古川がマネージャーとしておにぎりなどを出すのは稀である。

 大抵は学校の仕事で手が空いた鉄山先生などが作ってくれるが、今日はテストの答え合わせなどの為に居ない。


(いつも塩おにぎりじゃ、みんな元気出ないかな? まぁお弁当とか持参っていつも言ってるし、今のところなんとかなってるね)


 そう思って、古川がおにぎりを次々とサランラップの敷かれた銀のトレーに置いていく。

 一人三個分のおにぎりを握り終える。


「さてと―――後は打席練習と投球指導だけ。みっちりやろう」


 古川がそう呟いて、おにぎりの乗った銀のトレーをメンバー達の場所に運んでいく。



「よーし! 休憩だ。しっかり弁当とおにぎり食べとくように」


 中野監督の言葉でメンバーが地面に座り込んで、休憩する。

 古川がメンバー達におにぎりを渡していく。

 九衞が感謝して、おにぎりを頬張る。


「んー? なんか塩足ねぇな」


「ちゃんと入れてるよ」


 九衞の疑問に古川が淡々と答える。


「九衛君。そんなこと言っていると数年後に肝臓壊しますよ」


 星川がおにぎりを食べながら、弁当箱を広げる。


「大丈夫だって、俺様は鉄の肝臓持ってから壊れない」


「意味わかんねーつーの」


 陸雄が突っ込みつつも、おにぎりと弁当を食べる。

 同じく灰田がコンビニ弁当を食べながら、おにぎりを食べ終える。


「強面野郎だけおにぎりに砂糖入れてやろうぜ。そしたら文句言わねぇよ。な、マネージャー?」


 九衞が少しだけピクリっと眉を動かして、何かを察したのか―――黙って弁当を食べていく。


「うーん、それならわかめおにぎりの方が良かったかな? おにぎり一つでメンバーが強くなるなら、スーパーかアマゾンで部費から買いだめしておこうか? いつもお弁当で量をごまかしてるし……」


 ハインが放課後と同じようにモグモグとおにぎりとコンビニの弁当を食べていく。


「いや、これはこれでデリシャスだ。ライスはグッドなソウルフードだ」


 毎日コンビニ弁当の坂崎がビックリする。


「は、ハイン君。い、胃袋どうなってるの? ほ、捕手ってそれくらい食べなきゃダメなの?」


「フッ、和んでないで食べ終わったら守備練習するぞ。錦先輩はもう手が空いたから素振り始めているじゃないか」


 そう言って、紫崎が顎で錦先輩を指す。

 錦は素振り練習を既に始めていた。


「早いな~。まだ十分も経ってないのに~。錦先輩って早食いなんだね~」


 松渡が自作の弁当を食べながら話す。

 スイングの音を聞きながら―――陸雄がお弁当を食べ終わる。


「俺もやらないとな。量より質だしな。はじめん、灰田。坂崎とハインも混ぜて、早く投球練習しようぜ!」


 陸雄がそう言って、立ち上がる。


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