第178話
※
ハイン達がバスで揺れている間―――。
兵庫の病院で陸雄が母親と一緒に出入り口付近のベンチに座る。
「ほら、あんたのスマホ。もう入院するんじゃないわよ?」
陸雄の母がそう言って、無事に退院出来た息子にスマホを渡す。
「おおっ、解ってるって! サンキューな。って、バッテリーヤバいじゃん! 充電しといてよー」
「何言ってんの? 清香ちゃんとお母さんが入院中のあんたの世話しただけでもありがたいと思いなさい」
「あ、ああ……悪かった。ん? 野球部コミュニティに俺宛にメッセが届いてる? 星川君だ」
陸雄がスマホを見る。
陸雄の母は予約したタクシーを待ちながら、スマホのニュース関連を見る。
母のスマホのニュースサイトから高校野球ニュースの速報が表示される。
『大森高校はもう弱小校じゃない! 二試合連続コールド勝ち!』
その記事のニュースタイトルを見て、陸雄の母が驚く。
「あら、ちゃんと勝ってるみたいね」
母が意外そうに少し驚く。
陸雄も星川からのメッセージで勝利報告を確認した。
「やったー! 勝ったみたいで安心だぜ! 母さん、俺達また勝ったぜ。今日は豪華な夕食頼むよー」
陸雄が喜んでいる間に予約していたタクシーが目の前に止まる。
「はいはい、知ってるわよ。ほら、タクシー来たわよ。清香ちゃんのお父さんが今日仕事で送迎出来ないんだから、タクシー代はあんたの次の小遣いから引いとくからね」
母親がベンチから立ち上がる。
「うげっ! ま、まぁ勝ったんだし、今日くらいはそれくらい別に良いか」
陸雄も立ち上がって、涼しい夏風に吹かれながら、遠くを見るように目を細める。
「さてと―――エース復帰で兵庫県高校野球最強伝説の始まりだぜ!」
母親がタクシーの開いたドアの前で陸雄に注意する。
「どこ見て言ってんのよ? 年頃なのは解るけど、カッコつけてないでさっさと乗りなさい」
陸雄が返事をして、タクシーに移動する。
二人で後部座席に座る。
「清香ちゃんが家で勉強教えるって待ってるわよ。期末テストあるでしょ?」
「安心しとけよ。清香に入院中に教えられたから、余裕、ヨユーっすよ」
母親がため息をついて、タクシー運転手に行き先を伝える。
「その前に期末テストか……これが終われば―――いよいよ夏休みが始まる! 決勝で待ってろ、乾!」
前で聞いていたタクシー運転手が運転しながらニコニコする。
陸雄は窓の景色を見る。
窓越しの移り行く景色の中で―――過ぎ去っていく時間と共に、いつか辿り着くであろう甲子園の景色を陸雄はイメージする。
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