第161話


 松渡がハインの近くにフォローに入る為に走る。

 ハインが手でボールを拾い、一塁を見る。

 その前に松渡が見えたので、ボールを投げ渡す。

 グローブで捕球した松渡が投球フォームで一塁に向かって投げ込む。

 塁を踏んだ星川がグローブを前に出して、構える。

 飛んでいくボール―――走り込む戸枝。

 やがて戸枝は一塁に向かって―――足を強く蹴り上げて飛ぶ。

 ヘッドスライディングだった。

 星川がボールを捕球すると同時に―――戸枝が一塁にドサリと音を立てて、倒れ込む。

 観客が静まり返る。

 僅かな静寂の間。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 観客がワッと盛り上がる。

 泥だらけのユニフォーム姿の戸枝が立ち上がる。

 西晋高校の監督が驚きつつも呆れる。


「打者の立場とは言え、投手がヘッドスライディングをするな。全く無茶をする」


 戸枝のプレイに西晋高校のベンチの士気が上がっていた。

 ジェイクのホームランとは違った熱気だった。

 その熱気にジェイクもニコニコと歯を見せて笑う。


「ナイス プレイ ネ。ジャパニーズ ベースボール ソウル ダヨ。―――キャプテン」


 ハインが松渡に肩を借りて、立ち上がる。


「ごめんね~。連係は取ったんだけど~」


「気にするな。ツーアウトの状況でバントをするとはオレも思わなかった。ボールが落ちた位置とは言え、オレ自身も僅かに行動が遅れたの事実だ」


 周りの野手達が近づこうとするが、ハインが手で制する。

 そのままハインは定位置に戻っていった。

 松渡もマウンドに戻り、ロージンバッグを握る。


「西晋高校―――七番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


(戸枝キャプテンに続こう。ジェイクまで繋げれば逆転出来るんだ)


 七番打者がそう決心し、打席に立つ。

 西晋高校の監督のサインを見て、頷く。

 星川からボールを受け取った松渡が構える。


「―――プレイ!」


 審判が宣言する。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 七番打者の腕が緊張で震える中―――指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。

 七番打者がスイングするも空振る。

 振ったバットがボールのやや上だったようだ。

 ボールがハインのミットに収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに130キロの球速が表示される。


(下位打線はまだ早い球には対応があまり出来てないようだが―――敢えて二球目は……)


 ハインが返球する。

 松渡が捕球する。

 一塁にいる戸枝がリードをやや大きめにとっていく。

 ファーストの星川が塁を踏みながら気にする。


(仮に盗塁されたとしても―――次の打席で取り返せると思うのは甘えですかね? まぁ、松渡君達なら抑えてくれるはずですね)


 そんな中でハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 七番打者が一呼吸置く。

 指先からボールが離れた時に―――バットを握る力を入れる。

 ボールは外角高めに飛んでいく。

 打者がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが真っ直ぐ沈んでいく。

 バットの軸からやや下の位置にボールが当たる。


(やはりフォークボールが読まれていたか―――しかし深く握らせた)


 カキンッと言う金属音と共にボールが低めに飛んでいく。

 戸枝が二塁に向かって走って行く。

 サードにボールが飛んでいく。

 七番打者がバットを捨てて、一塁に走って行く。

 坂崎が腰を屈めて、グローブを手前に出す。

 パンッという音と共にグローブにボールが入る。


「や、やった! と、捕れた!」


 サードライナーの打球を坂崎がキャッチする。


「―――アウト! チェンジ!」


 塁審が宣言する。


「坂崎! よくやったな。俺様も鼻が高い!」


 九衞が口元を少し緩めて、声を上げる。





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