第124話


 捕手がサインを出す。

 戸枝が頷く。

 投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角やや低めにボールが飛ぶ。

 大城がバットを振る。


「め、メンソーレ! 早い球サー」


 タイミングが全く合わずに振り遅れる。

 ミットにボールが入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 捕手が返球する。

 戸枝がキャッチする。

 スコアボードに102キロが記録される。

 大城がバットを構え直して、吠える。


「メェンソォウーレェーン!」


 奇声に近い叫び声だった。

 観客がビクッとしてザワザワ騒ぐ。


「何、今の? 凄い声裏返っててキモい」


 相手ベンチのマネージャーがペンを落としそうになる。

 無視した捕手がサインを出す。

 戸枝が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛ぶ。

 誘い球だった。

 大城はバットを真っ直ぐにフルスイングする。

 ボールはかすりもせずにミットに入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに110キロの球速が表示される。

 捕手が返球する。


(訳が分からない。なんでこいつが八番打者なんだ。戸枝―――出鱈目にバットを振っているとはいえ、ランナーがいる)


 捕手がサインを出す。

 戸枝が頷いて、投球モーションに入る。

 大城はバットを左右にブラブラ軽く振る。

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛ぶ。

 そのまま打者手前で左に曲がりながら落ちていく。

 シンカーに大城がだいぶ遅れて、バットを振る。

 空振りをして、ミットにボールが収まる。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに108キロの球速が表示される。

 大城は三振になり、大森高校はツーアウトになる。


「メンソーレ! 何かが掴めた気がしたサー」


「君っ! 次の打者が入るんだから、私語は慎んでベンチに戻りなさい!」


 審判に注意され、大城は早足で去っていく。

 その小走り見える遅い動きが場内を笑わせた。


「メンソーレ! 良い汗かいたサー」


 ベンチに座って、大城は水をガブガブっと飲む。

 周りが見て見ぬふりをする。


「九番―――ライト、駒島君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「どうやらこの打席でワシの本領発揮だな」


 ネクストバッターサークルから打席にゆっくりと移動する。

 左打席に駒島が立つ。


「長野から来たワシの最強打席伝説にひれ伏すが良い!」


 駒島がバットをブンブンと中途半端に振りながら、腰を動かす。

 捕手からボールを受け取った戸枝が白い目で見る。


「なんだあの八番と変わらないポッキーみてぇな手足と醜いビール腹は? 同じ球児―――いや、高校生か? 老け顔で脂ぎってやがるし、気持ち悪いが集約されてやがる」


 戸枝がぼそりと本音をマウンドで漏らす。


「大森高校のキャプテンであるこのワシこそ―――!」


「君、私語は慎みなさい!」


 審判に注意され、駒島が黙り出してバットを構える。

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