第123話
「六番―――センター、灰田君―――」
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
ネクストバッターサークルの灰田が右打席に立つ。
中野監督のサインを見る。
(一球待て―――後はバントねぇ。中野の奴、後があのオワコン二人だから、俺に戸枝のタイミングと球種を覚えさせようとしてんのか?)
灰田がヘルメットに指を当てる。
中野監督が腕を組んで、頷く。
(戸枝―――次は下位打線だ。もうビビることは無い)
捕手がサインを出す。
戸枝が一度目を瞑り、気持ちを切り替えて―――頷く。
やがて投球モーションに入る。
指先からボールが離れる。
灰田がじっと観察する。
(確かにタイミングが取りづらいフォームだな。だが、傍から見ても球は110キロクラスだ)
外角やや低めにボールが飛ぶ。
そのままボールは打者手前で左に曲がりながら落ちていく。
ストライクゾーンのギリギリにボールが入る。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
灰田がボールの軌道まで覚える。
(今のがシンカーか。マネージャーとの練習で覚えてはいるが―――だいぶ遅いな)
スコアボードに105キロの球速が表示される。
捕手が返球する。
戸枝がキャッチする。
灰田が構えまま姿勢を崩さない。
捕手がサインを送る。
戸枝がコクリと頷く。
やがて間をおいて、投球モーションに入る。
指先からボールが離れる。
内角やや低めにボールが飛ぶ。
灰田がサッとバントの構えに入る。
(スクイズ!? しまった! 前進守備にしていない!)
内角のコースに合わせて、バットを移動させる。
コンッと言う音が小さく聞こえる。
戸枝と捕手の中間の位置にボールが右側に転がっていく。
投球の構えを解いた戸枝が走って、ボールを捕りに行く。
星川がホームベースに向かって走りながら、そのまま踏んで通過する。
「これで5点目です!」
松渡が二塁にややゆっくりと走る。
ボールを捕った戸枝が一塁に素早く投げる。
ファーストが塁を踏んだまま捕球する。
灰田が一塁からやや離れた所で捕球後にゆっくりと塁を踏んだ。
「―――アウト!」
塁審が宣言する。
ファーストがセカンドに投げる。
松渡が余裕を持って、二塁を踏む。
セカンドが捕球する。
「―――セーフ!」
塁審が宣言する。
(もう盗塁しないのか? やっとアウト一つ。やはり弱小校なんかじゃない)
戸枝がセカンドから返球されたボールを握る。
「八番―――サード、大城君―――」
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
大城がバットを背中に当てながら打席に移動する。
「メンソーレ! 女子の視線が眩しいサー。勃ってきたサー」
観客の応援がやや静かになる。
「何、アレ? 気持ち悪い……」
女子からのぼそりとした声にも大城の耳には届かなかった。
左打席に大城が立つ。
戸枝が困惑する。
「なんだあいつ? ポッキーみてぇな手足だな。本当に人間かよ? なんかウチのベンチ見て、勃起してるし……」
「メンソーレ! 可愛いマネージャーサー。パンツどんなの履いてるか気になって集中できないサー」
大城が相手ベンチのマネージャーをじっと見る。
見られた相手は怪訝そうな顔をしている。
「君! 喋ってないで打席に着いて!」
審判に注意され、中野監督が頭を抱える。
「はぁ~、サイン覚えるどころか練習来てもいないんじゃ対策のしようも無いな。ハイン、念のためネクストバッターサークルに着いててくれ」
「ナカノ監督―――解りました」
大城がホームラン予告をする。
場内にわずかな笑いが生まれる。
嘲笑にも見て取れた。
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