第98話
※
「ちぃ、ちょっと気合い入れてペース上げちまったか……」
合計五キロのランニングを終えた陸雄が家に着く。
ポニーテールのシュルエットが目に付く。
「―――おっ?」
私服姿の清香だった。
玄関前にタオルを持って、待っている。
「わりぃ。遅くなった」
陸雄がタオルを受け取り、顔を拭く。
「別に大丈夫だよー。どうしたの? 顔怖いよ」
「あっ、悪い。さっき、ちょっと―――な」
(顔にまだ出てたか……ちぇ、真伊已の野郎!)
キョトンとする清香だったが、思い出したかのように自分の両手を合わせる。
「あ、ニュース見たよ。凄い話題になってるよ。クラスのコミュニティでも盛り上がってたよー」
「ん、まぁ、兵庫県内で俺らのことを見ている相手校もいるんだ。気が抜けねーよ」
「ほほー! それじゃあ、各地で注目されるんだー。すごーい♪」
自分の事のように嬉しそうな顔をする清香にドキッとする。
陸雄は照れくさそうに顔を逸らして、話す。
「……俺は、俺達はこれからも勝ち続けるからさ」
「ふーーん」
清香が上目遣いで、まじまじと見つめる。
そのまま顔を少し近づける。
「な、なんだよ! ちょっと顔近いって! ポッキーゲームじゃねぇんだぜ?」
「な~んか、陸雄。怒ってるね」
「い、いや、別にいつもどうりだよ?」
「なんでちょっと最後疑問形なの~?」
意地悪そうな小悪魔的な表情で清香が見つめる。
(こういう時の清香って、なんかゾクッとすんだよなぁ)
(こういう時の陸雄って、隠し事してるって顔に出るんだよなー)
見つめ合った二人は別々のことを考えていた。
陸雄が少し離れて、話題を出す。
「もう夜九時だし、勉強は十一時までだろ? さっさと部屋に上がろうぜ」
「そうだねー。じゃあ、その為にもまずは期末テストの対策勉強だよっ! プリントにまとめてきたから効率よくやろうねー」
(真伊已の件は一旦おいておこう。今日の勉強と二回戦までの練習で発散させればいいだけだ)
「もうっ! 聞いてるの~?」
背の低い清香がぴょこぴょこ跳ねる。
「む、むぅ……」
ウサギの様な清香に陸雄は和む。
「いかんいかん。清香見て、和んでる場合じゃない! うわっ! 汗が冷えてつめてぇ~」
「陸雄のお母さんが浴室に着替え用意してるよ」
「そうか、じゃあシャワーだけ浴びてすぐに行くからさ」
「は、裸はもうヤダからね。ちゃんと服着てね」
思い出したのか―――清香が頬を赤らめて、顔を逸らす。
「んなことすっかよ」
「忘れんぼさんなの? こ、この前裸だったじゃないかよぅ!」
少しだけ振り向いて、横目で陸雄を見る。
「あ、わりぃ。そういやしてたな。じゃあ、先に部屋で勉強してて―――ちゃんと目を覚まして、勉強すっからさ」
「家に帰ってこっちは三時間やったから大丈夫だよ。後は陸雄に教えるだけだから」
「おう。清香、ありがとな。少し落ち着いた」
陸雄が何かに対して怒っている。
清香なりに気付いて、どうやら気遣った言動だったようだ。
「―――んっ、良いって良いって。スッキリした?」
「……ちょっとだけ、テスト終わったら―――休日にケーキ奢るからさ」
「あっ、食べたいケーキはね―――」
「苺のショートケーキだろ? シュークリームも付けるぜ」
「わーい! ありがとうございます!」
「マジでいつも感謝してるよ」
「感謝するのはテストで高得点取った後です。陸雄はテスト後に私にケーキ奢って、そのケーキを私がパックリ食べちゃうんです! がお~!」
両手をあげてライオンの真似をする清香。
その姿が可愛らしいのか、思わず陸雄は笑う。
「あははっ! わかった、わかった。今月はそれで金欠になるから、もうスイーツたかるなよ」
「は~い。お部屋片づけておいたから、出発進行だよー」
部屋に入って、靴を脱ぐ。
「しかっし、あの一回戦でクラスの女子にモテモテ間違いなしだな」
「女の子の気持ちが解らない陸雄には今夜はみっちり勉強教えるね♪」
清香が優しい笑顔のまま怒っていた。
「えっ? 清香さん? 俺なんか失言しちゃった? ちょっと怖いから先にシャワー浴びて、作戦ターイム!」
「知りませ~ん。考えてももう遅いから、早く上がって勉強しようね」
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