第99話
※
陸雄が清香に夜中まで、勉強を教わっている頃。
一通り勉強を終えた灰田は布団で寝ていた。
星川達は既に帰っており、灰田は新作映画はまた今度見ることにしたらしい。
灰田は布団の中でうなされていた。
悪夢にうなされているのか、汗がびっしょりと流れている。
夢の中で灰田の父親の言葉が聞こえる。
「お前はもう九州では居場所がない。新しい場所で一からやり直し自己責任を覚えなさい」
灰田が中学の野球部で、暴力事件を起こしたメンバーの声が暗闇の中で聞こえる。
「お前なんか居ない方がチームがずっと良くなる。降板しろ」
「っ!?」
ガバッと布団から起き上がる。
顔から汗がびっしょりと流れていた。
「また、あの夢か―――トラウマになってんな。何度目の悪夢だつーの」
犬の鳴き声が聞こえる夜中に、布団から出る。
(明日は親父に電話の報告か―――ったく、今時スマホでのツール無しの通話って何だよ。電話代かかるつーの)
灰田がスマホをじっと見る。
「親父の奴……俺が野球始めた事を言ったら、何も言わなかったな……」
スマホに向かって、無気力そうにぼやく。
灰田は二度寝が出来ないのか、冷蔵庫からイチゴオレを取り出す。
ゴクゴクとそれを飲んで、電気を付けてテスト勉強した。
※
次の日の朝。
陸雄はテーブルの上で寝ていた。
周りには教科書やノートが散らばっている。
清香の内心怒っている徹夜での教えで寝落ちしていたようだ。
肩には毛布が添えられている。
毛布が落ちて、陸雄が目を覚ます。
「あー、朝か……わりぃ、清香。内容覚えたから―――って! 朝っ!?」
陸雄が目を完全に覚まして、立ち上がる。
毛布がドサリッと落ちる。
破いたノートに何か丸い可愛らしいコロコロした文字で何か書かれている。
『途中で寝ちゃったみたいだから、帰るね。モテモテの陸雄』
「えっ? 清香さん? 清香さぁーん!?」
動揺したのか、部屋でバタバタとスポーツバックに科目を詰め込む。
最後にスマホで時間を見てフリーズする。
「マジかよ! 朝練サボってる! 急がないと殺される!」
ユニフォームは乾燥機に入れていたのを思い出し、ドタドタッと階段を降りていく。
キッチンから母親の声が聞こえる。
「陸雄ー。起きたのー? 中野監督って人から電話来てたわよー? 怪我でもしたのかって心配そうにしてたわ」
陸雄が乾燥機から乾いたユニフォームをスポーツバックに乱雑に入れる。
スパイクとグローブもバッグに袋に詰め込んで入れる。
「中野監督がっ!? 母さん、気の利いた言い訳したの? 実は登校中に川で溺れている犬を助けて、今警察に聴取されてるとかさ? 明日表彰されるとか、そう言う系の―――」
「ううん。なんか今寝てるって言ってたら、凄い落ち着いた優しい声で『今日の朝練に遅刻しても来ないなら、陸雄君はスタメンから落としますね。しばらく練習で地獄を彼に与えますから、これからは生きて帰れないぞって、伝えておいて下さい』って言ってたわよ」
陸雄が恐怖を感じたのか、ゾッとする。
「おいぃー!! それって、モロに監督の逆鱗に触れてるじゃねーかっ!? お母さん! 朝ご飯は良いから―――中野監督にすぐに行きますので、スタメン落ちは絶対無しにして下さいお願いします―――って、連絡入れておいてくれ」
陸雄が急いで制服に着替える。
「ああ、それなら中野監督から『もし陸雄君が言い訳して、そのまま慌てて登校するなら―――トラック事故でもしてラノベみたいに異世界転生するよりも、現実世界で死よりも厳しい罰を与える。そう伝えておいて下さい』って言って電話切ったわよ。じゃあ、言い訳も含めて電話しとくわね」
「流石は元高校野球四強の一つの名将っ! 見事に俺の行動が先読みされてんじゃん! ってか、異世界転生しないし、現実ですさまじい罰受ける事確定じゃん! あの人は一秒単位で罰を厳しくする鬼監督だぞ! つーか、さりげなく最後に報告すんなよ!」
玄関に飛び出して、靴を履く。
後ろからキッチン越しの母親の声が聞こえる。
「あと、昨日の夜に清香ちゃん怒ってたわよ。人の気持ちが分からない子にチームと一緒に練習出来るの? 来月のお小遣い減らすからね」
「くっ! 泣きっ面に蜂じゃねーか! 今の俺、四面楚歌じゃん! ああ、もう! 行ってきまーす!」
「まったく……ほら、急ぎなさいな」
陸雄は制服姿でダッシュで登校する。
「さてと中野監督に電話しなきゃね。あーあ、今日は朝ごはん無しねぇ。仕方ないから冷蔵庫に入れて、帰ったら電子レンジで温めて食べさせるしかないわね」
母親がそう言って、大盛りの牛肉カレーをサランラップで包んで冷蔵庫に入れる。
※
朝練が始まって、五十分後―――。
学校に着いた陸雄は、走ったまま校門に向かう。
「清香の奴 ほっとくことないのに!」
校門を抜ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます