5話~渦巻き虫~

立蔵「これからは話すことは俺自身に実際に起きた出来事なんだ」




立蔵は汗を拭いて話を始めた。




それは彼の体脂肪から流れる汗ではなく…




過去に自信に起きた怪現象を思い出し、


恐怖を思い出して噴き出した冷や汗だった…




立蔵は一息ついて話を始めた。







ここの大学の図書館の地下に行ったことあるやつはいるかな?




ウチの大学の図書館は基本的に教員以外は


エレベータでしか行けない地下二階があるんだ。




一階はみんなも知ってると思うが、


貸し出しのできない文献やレポートが補完されている。




印刷機で内容をコピーすることは出来るけどね。




ただ二階は印刷機も無くて、


教授の許可を貰った申請書を


前日までに書かないと行けない場所だ。




そこは大学生のレポートや研究には関係のない、


使われることはまずは無い…




いやレベルが違うとでも言った方が良い…




様々な事情から補完された資料や書類、


はては研究用に使われた物もあった。




そこへ行けるのは、


ごくごく一部の専門学科で優秀な学生と


本大学の教授くらいしか入れない場所なんだ。




俺は当時自分で言うのもなんだが出来のいい生徒だった。




優秀な奴らから数えれば下の方だが…




そこに置いてある本などは


レポートや研究の参考文献としての転載もできない…




何故そんな役に立たないものが保管されているのか?




昔からそのことで一部から色々言われているが、




現大学の学長でさえ


「初代学長…かつての経営者だった人からの遺言で創立された」


としか言われていない…




理由について書かれた書類も




どいうわけだか




「研究書類の特別増備」




としか記載されていなかったらしい。




どこか異常な話…みんな結局何故出来たのか、


確証が掴めないまま、曖昧なまま誰も興味を示さなくなった。




そんな場所で優秀な学生だけが


許可を貰って行ける場所…




不思議な魅力があったのも事実…




俺は表面上は今の研究の中で、


過去の研究者のレポートがそこに保管されているので閲覧したい…




そんな理由で特別に許可が下りた…




実際は中をくまなく見てみたいっていう好奇心が本音だった。




受付の事務員同伴で、


鍵付きのが地下二階行きのボタン解除が行なわれ、


エレベーターで降りていった。




中は地下一階と変わらない設備…


レポートや文献、何かの実験で使われた物…




他と違うのは実験結果が映されるビデオデッキのある場所…


何かの実験で使われた物や物体が保管されている研究室…




それくらいで俺は本棚の探索に時間をかけた…




レポートをまとめたファイルばかりで、


書物はほとんど無かった…




奥にに行って後悔したよ…


そこに恐ろしいものがあったんだ。




地下の電灯が消えかかってる場所があってな。


ZA1ー1って本棚には記されていた。




他の本棚には例えば「AA-1 IPS細胞研究」とか


そういったカテゴリ名も書かれているはずなんだ。




そこにはZA1ー1としか書かれていない…




本も少なめだった。




赤いファイルと金装飾の剥がれた広辞苑のように分厚い書物…




鉄製の本棚の中に…


一つだけ木製の浮いた本棚で…




俺は恐怖と好奇心が混ざっていた。




一度その場所から離れた…


少しだけ恐怖があったからだ…




俺は専門だった本棚を探して、


研究資料を一通り読んで、


メモ書きをして仕事を終えた。




頭からあの本棚が離れなかったし、




こういう場所は今度行ける機会が少ない…




今度は好奇心が勝った。


俺はあの場所に向かった。




その場所に戻ると…




本棚から一冊の赤い書物が落ちた…




風なんか吹いていないのに…




ページがばらばらとめくれたんだ…




俺は足が震えて一歩も動けなかった…




ページが全て赤と青のペンで


大きく書かれた渦巻き模様ばかりだった。




目で見たくないのに視界が離れなかった…




途中でページが停まった時に…




見た事もない虫が本に貼り付けられていた…


触角のない紫と茶色のまだら模様の10cmほどの大きさの虫で…


足が8本…見た事も無い不気味な虫だ…




その虫がめくられた渦巻きのページたちと同じように…


渦巻きみたいな形で張り付いていて…




その渦の中心に…




人の目が三つあったんだ…




それと目が合うと虫が次々と渦から溢れて来て…




悲鳴を上げた時に誰かに足を引っ張られて転倒したんだ。




転んで起き上がった時は…




BB-1のマテリアル工学って書かれたコーナーにいた。




瞬間移動みたいな体験だった。




足を引っ張った手の感触はぬるっとしていて…




気持ち悪かった…




事務員が俺の悲鳴で来て、その日は散々だった。




俺の行ったあの木造本棚のある場所は…




ただのコンクリートで塗り固めた壁になっていた。


元々そこは創設された時から壁のままだったんだ。




人に信じて貰える話じゃない…




ただそれ以来俺は許可ももらえない学生に戻った。




謎が謎のままで、調べたくもないし…


それから何も起きなかったが…




今でも俺は図書館に行くたびに震える…


悪寒がするんだ…







立蔵「これで俺の話は終わりだ」




篤志「………」




美都(すごく静か…


篤志君も部員としての真摯さとかあるんだな…


ちょっと見直した)




篤志は虫が苦手でさらに虫のことをテーマにした怪談だったので、




絶句していただけだった…




美都「それでは次の…小林さん、お願いします」




最初に美都に配られた缶コーヒーのタブをまだ開けていない男…




小林は両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくる。


それは少し威圧感のある姿勢だった。




小林「俺の話も…」




少しだけ間をおいて、彼は次の言葉を口にする。




小林「俺が体験したわけではないですが、


一昨年俺の友人が体験した出来事です。


そいつは今…そいつは…」




重い空気になっていた。


皆が小林のこの次の言葉が、


嫌な想像を働かせた結果で出来た空気だからだろう…




小林「今も変なことが起きているんです…


話しましょう…そいつが教えてくれた体験談…


封鎖された網目の井戸での恐ろしい話を…」




みんなは好奇心と恐怖と緊張が混じった心境の中で…


小林の話を聞いた…

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