4話~死人アバター~

鈴木の話が始まった。




鈴木「この怪談は一昨年に起きた出来事なの…


体験者だった薬学部の先輩は…


今も大学に来ないで捜索願が出ているんだけど…」




美都「あ、大学のバス停の前の生協の掲示板の隣に貼られてた紙ですよね?


見るとブルーな気分になっちゃいますよね…


おかげで友達と購買部で買って食べた


北国ミルキードーナツの味忘れちゃいましたよー」




篤志「………」




美都「ごめんなさい…鈴木さん…話続けてください…」




鈴木「…その行方不明の川上さんはね。


自宅から逃げるように外へ走ってそれから行方が知れないのよ…」







その川上さんは当時は大学3年生で、


一人暮らしのどこにでもいる大学生…


その時は夏のインターンシップや企業説明会が目立ってきた時期だった…




一年の頃から遊んでいたオンラインゲームを


家に帰ったら遊んでいたね。




MMOっていう多人数のハンゲーム…


まぁ、簡単に言えば自分の分身のキャラクターを作成して、


同じように作成したプレイヤーと協力してモンスターと戦うゲームね。




彼女は最初は無料のサーバーを使っていたんだけど、


二年になった時に有料のサーバーにデータを引き継いだの。




サーバーっていうのは…まあ、部屋だと思ってくれればいいわ。


電子空間で言うと別々の部屋で集まって遊ぶ場所って所かしら?




彼女のアバターはその有料の部屋で活動することになったの。


…アバターっていうのは簡単に言うと作成されたキャラクターね。




初めての有料サーバーでオンラインで出来たフレンドと


それなりに楽しく遊んでいた時期にね。




変ったデザインのアバターを見かけたのよ…




一瞬画面に映ってそのまま横切って、戻ったら映らなくてね。




友達に「今変わった装備の人がいたよね?レアアイテムでもつけてるのかな?」




ってチャットで聞いたんだけど…


「人っていたの?ゴメン、よく見てなかった」




そんな返答が来て、ログアウトして、


パソコンをシャットダウンした後に…


彼女は冷静に考えたの…




私がオンフレと遊んだダンジョンは一人で行くには厳しい場所…




しかも100階から先はランダムに地形やモンスター生成される


エンドレスヘルタワーって言う


終わりのないダンジョンだった…




私は375階でそのアバターを見かけたけど…


あのダンジョンには特殊なルールがあったはず…




200階から先に一人で行った場合は


1人用と団体用に分かれる仕様だった…




つまり一人で団体用のダンジョンにいることは不可能のはず…




川上さんはその時色々考えたらしいの…




スタッフのアバター?


ただのバグ?


長時間プレイで目が疲れて見えた幻覚?




そんなことを考えながら…


彼女は頭からあのアバターが離れなかったらしいの…




スポーツバッグを持って、赤いドレスを着ていて、


エルフのように長い耳をした、


セミロングの肌の白い黒目の女性…


真っ白な槍を持つ、


奇妙なデザインのアバターが気になったの…




運営にバグとしてメールを送って、


その夜は昼から始まる企業説明会に向けて


彼女は深夜に寝たわ。




説明会が終わって、


家に帰るとスーツを脱いで、


友達から誘われていた合コンに参加するために服を着替えたの。




時間は七時に始まって、


深夜に終わる予定で、


今は夕方の四時…




せっかくだから彼女はオンラインゲームを始めたの…




2時間くらいは気分転換と暇つぶしも出来るだろうし、


何よりも昨日のアバターが気になったこともあったらしいのよ。




運営のメールからも細かいバグは昼のメンテナンスタイムでなくなりました…


って適当なテンプレ文体メールで


本文も読んでいなくて相手にもしていなかったから…




彼女自身で探してみたいと思って、


オンフレも誘ってエンドレスヘルタワーの275階まで進んだの…




アバターのいた場所を探したんだけど…そこには居なくて…


やっぱり幻覚か気のせいかな?




でもあんなデザインのアバターは稼働初期から3年もいるけど…


見た事が無いって彼女はあきらめきれなかった…




オンフレからのチャットで


「脱出アイテム使って帰ろうか?」


って台詞が来て諦めて、


壁の辺りを誤って移動した時にそれは起きたの…




壁に隠し通路があって真っ黒な部屋に入ったの…




そこで違和感や変な現象が起きてね…




いつものインターフェースデザインの


装備のステータスやチャット画面が開かない…




音も無音で画面は自分のアバター以外真っ黒の画面で…




スクリーン画面には彼女の部屋が黒画面でぼんやりと映っているの。




バグだと思ってログアウトしようにもできなくて…


アバターが自動で進んでいるのが不気味だったわ。




なんでそんな細かい事までわかるのかって?




それは彼女が壁に入った時にオンフレが彼女の落とした


アイテムを見つけたからよ。




そのアイテムは自分以外のアバターの行動記録が見れる課金アイテムでね。


再生が何度かできるのよ。




それでその状況を事件が終わった後から知ったらしいわ。




…話を戻すわね。




真っ暗な道を歩いていたらあのアバターに出会ったのよ…




彼女は怖くてパソコンの電源を消したんだけど…




画面はコンセントを抜いても起動していたらしいの…




それでね。後ろからドンッ!って音が聞こえて…


画面のウインドウに映ったのはスポーツバッグだったの…




振り向くとバッグの中から…




肌の白いアバターそっくりの女性の顔が覗き込んでいたのよ。




川上さんは無言でドアまで走って…


大急ぎで外に出たわ…




その時はすでに夜で…


心配した友人とドアを出てすぐのところで出会ったの…




彼女は事情をすべて話したわ…




警察を呼んで捜査が終わるまで二人で合コンに不参加で


30分ほど公園で待っていたんだけど…




警察の話では見た個ともない血文字で書かれた


人の名前と住所が書いてある紙が空のスポーツバッグに入っていて…




パソコンは起動しても付かない故障になっていたそうよ…




後からわかったんだけれど…




その名前と住所は死んだ女性の名前で、


生きていることはまずあり得ない死人だったそうよ…




彼女はそれ以来怖くなって友達の家でしばらく泊まって、


親とマンションの大家さんに相談して引っ越しすることにしたの…




でも次の日に彼女は友達の家から買い物に行ったきり、


帰ってこなかったわ…




行方不明はここから始まったの…




それ以来オンラインゲームのサイトは閉鎖して、サービスも終了。




死人アバターの話が掲示板で話題になったけど、


スポーツバッグに書いてある住所はネットカフェで、




女性の名前がちょうどカフェが開店し始めた時に、


常連として名前が書かれていた事だけ…




名前を調べて捜査した警察の話では…




娘が家出した後に、一家心中があって、


その家の中に何枚かお札が張られていたらしいわ。




家出していた娘はオンライオンゲーム好きで、


家に引きこまっていることが多くて…




家庭は経済事情や警察沙汰があって荒れていたらしいの…




家出してからは所謂ネカフェ難民って言う短い生活の後に…


ネカフェの個室でオンラインゲームのブラウザを開いたまま…




薬物自殺をしていたらしいの…




今でも彼女は現実逃避でオンライオンゲームを


どこかで始めているのかもしれないわね…




自分の生活を呪って…


豊かな生活の中で同じようにオンラインゲームを楽しく遊んでいる


ユーザーを憎みながら…




酷い話でもあり、悲しい話でもあるわね…







鈴木「これで私の話は終わり…


この話を先輩から聞いて、


私はネチケットは大事にしようと思ったわ。


悩み事はリアフレと同じくらい真剣に聞いて大事にしているのよ」




篤志「俺…モバゲー退会するわ…」




美都「私も…あと10%でコンプだけど辞める…」




篤志「美都さんもやってたんすか?」




鈴木が会話の横に入る。




鈴木「それより次の立蔵さんの話に行くべきじゃないかしら?」




美都「そ、そうですね…それでは立蔵さん…4つめ、どうぞ…」




次は太り気味の黒シャツを着た立蔵の番になった。




立蔵「俺の番か…これから話す怪談話は…」




立蔵が少し考えるように間をおいて…次の言葉を言った。




立蔵「俺自身に実際起きた出来事なんだ…」




みんなは立蔵のこの言葉に、


緊張感と好奇心の混ざった視線で小太りの4年生、立蔵に注目した。




立蔵は顔に冷や汗を流す…


それはいつもの運動すると人の倍は流れる脂肪から来る汗ではなく…




振り返った時に思い出す、あの時の悪寒の汗のようにも見えた。

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