第3話

 ぬくい。

 木造の家に訪れる冬夜とうやは板張りの床を伝って手足の芯まで冷やしてしまうのに、今夜はちっとも寒くない。

 酒のせいかとも思ったが、どうも違う。

 自分の身の内から温かいのではない。何か、保温性のあるものに包まれているような。

 上等な毛布か、毛皮か。肌に柔らかな毛並みが触れている気がする。

 身体を丸めてふさふさの毛に擦り寄ってみる。

 やっぱり、ぬくい。

 この温かさの元は自分の体温だけではない。毛並みの方にも体温があるのではないか。

 じっとしていると、自分の呼吸とは別のリズムを感じる。生きている。目を開けて確かめられたら良いのに、何故かそれは叶わない。

 頭の中はふわふわと雲の上にいるみたいで、安心しきって弛緩してしまった。

 自分以外の体温に触れているだけで、こんなにも満たされる。

 けれど、本物ではないような。

 このしあわせは仮初かりそめのものでないだろうか。

 ごおん。

 ごおん。

 ゆるやかに、伸びやかな、振動。

 頭上から微かにただよってくる匂い。

 覚えのある美味しそうな匂い。

 なんだっけ。これ。

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