第104話 会ってみないと分からない

 オルニアスが姿を消した途端、腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。


「大丈夫だったかい?ユリア」


セラフィムがかがんで手を貸してくれた。


「あ、ありがとう…」


震えながらも何とか立ち上がると、ベルナルド王子がズカズカと私の所へやって来た。


「おいっ!ユリアッ!お前…本っ当に俺の事を好きではないのかっ?!答えろっ!」


この語に及んで意味不明な事を口走るベルナルド王子。しかし、こんな事を脅迫まがいで大声で尋ねてくるとは…。


「それならお尋ねしますけど、今の私はベルナルド王子を好いてるように思えますか?」


「…う…。そ、それは…。だ、だが以前のお前は…!」


「確かに記憶が操作される前の私はベルナルド王子の事を好きだったのかもしれませんが、はっきり申し上げます。今の私は王子には何の興味もありません。なので早く婚約破棄して下さい。宜しくお願い致します」


言いながら頭を下げた。


「え〜と…それじゃ、話もまとまった事だし…ユリア。そろそろ教室へ戻ろうか?」


セラフィムが声を掛けてきた。


「ええ、そうね。それではベルナルド王子。これで失礼致します。帰りの馬車は必要ありませんから」


「お、おい!まだ話は終わっていないぞ?!」


引き留めようとするベルナルド王子に私は言った。


「大体、ベルナルド王子は私の事を嫌っていましたよね?いつも邪険にしていたじゃありませんか?それを何故突然に手の平を反したかのようになったのです?」


「う…そ、それは…」


そこでベルナルド王子は黙ってしまった。


「ベルナルド王子…そもそも私が命を狙われているのは私が貴方の婚約者で、ある人物に嫉妬されているからなんですよ」


「え?そ、そうだったのか?」


「はい、なので自分の身を守る為にもベルナルド王子とは婚約を破棄して頂きたいのです。そうすれば相手も私の命を狙う必要は無くなりますよね?」


「ユリアはもうその人物が誰か見当がついているんだよね?」


セラフィムが質問してきた。


「ええ、勿論よ」


「それは誰だっ?!」


ベルナルド王子が大きな声で尋ねてきた。


「…生憎ですが…それはお話することは出来ません」


「何故だ?その人物を締め上げてやるぞ?」


「だからっ!お話出来ないんですっ!これ以上無駄な恨みを買いたくないんですよ。締め上げてやるなんて言われたら尚更言えません」


「ユリア…」


「それではこれで失礼致します。行きましょう、セラフィム」


「うん。行こう」


そして私とセラフィムは呆然と佇むベルナルド王子をその場に残し、教室へと向かった。



****


「ユリア。それで君の命を狙っている人物は誰なんだい?」


歩きながらセラフィムが尋ねてきた。


「ええ…多分同じクラスメイトの女子学生よ。彼女だけはオルニアスの魔法が効かなかったのよ」


「そうなのかい?」


「だから、それってつまりオルニアスを召喚した人物だからって事よね?」


「う〜ん…どうだろう?」


「ええっ?!違うのっ?!」


「とりあえず会って見ないと何とも言えないな」


「そ、そんな…」


こうして私は不安な気持ちを抱えつつ、セラフィムと共に教室へ向かった―。



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