第99話 何故ここにいる?

 翌朝―


 朝食後、学校へ行く準備をしているとノックの音が聞こえた。


「はーい、どうぞ入って」


するとカチャリと扉が開き、メイドが現れると私に言った。


「ユリア様。あの…ベルナルド王子がお迎えにいらしておりますが…いかがいたしましょうか?」


「え?ベルナルド王子が?!」


そうだった…。昨日は有耶無耶の内に屋敷の中ではぐれてしまい、その後の彼らの行方は不明になっていたのだっけ。

本当は馬車の中でセラフィムと今日の打ち合わせ?的な物を話し合いたかったけれども仕方ない。王子のお迎えを拒絶するわけにはいかないし。


「分かったわ。すぐに行きますと伝えておいて」


「はい、かしこまりました」


メイドは頭を下げると部屋を出て行った。


「…急がなくちゃ」


隣の部屋に移動すると、扉をノックする。セラフィムを呼ぶ為に―。





****



「…おい、その男…何処かで見た気がするんだが…?」


セラフィムを連れて馬車で待っていたベルナルド王子が最初に発した言葉がこれだった。


「あ、そうだった。そう言えば記憶の操作をするのを忘れていたよ」


セラフィムは言うと、指をパチンと鳴らした。すると…。


「お前…やはりユリアと一緒に住んでいたのだな?!おまけにこの間は炎の玉を俺に投げつけて来るとは…!」


ベルナルド王子がいきなりセラフィムに向かって怒鳴りつけてきた。


「え?炎の玉…?一体何の事だい?」


一方のセラフィムは全く見に覚えの無いことをベルナルド王子に責められて首を傾げる。そうだった!すっかり忘れていたけれど、ジョンはベルナルド王子に炎の玉をぶつけた事があったのだ。


「貴様…とぼける気か…?」


どうしよう、何と説明すればいいのだろう?思わず返答に困っていると…。


パチンッ!


セラフィムが指を鳴らした。その途端―。


「よし、では早く馬車に乗れ。遅刻するぞ」


ベルナルド王子が私達に声を掛けてきた。


「あ、はい。分かりました」


そして馬車に乗り込もうとした時、セラフィムが右手を差し出した。


「どうぞ、ユリア」


「ありがとう」


セラフィムにエスコートされて馬車に乗り込むと、何故かベルナルド王子が私を睨みつけている。


あの…怖いんですけど…。


「な、何か…?」


「…別に!」


「どうしたの?乗らないのかい?」


セラフィムに促されたベルナルド王子は不機嫌そうに馬車に乗り込むとセラフィムも乗り込み、馬車は走り始めた―。




ガラガラと音を立てて走る馬車の中で私はベルナルド王子に尋ねた。


「あの、テレシアさんはどうしたのですか?同じ馬車に乗っていないのですか?」


「ああ、実は今朝ちょっとした互いの見解の相違があって、別々に登校する事になったのだ」


「…つまり、兄妹喧嘩をしたと言う事ですね」


「ゴホッ!ま、まぁ…世間でそう言うこともあるかもしれないな」


何故堅苦しい言い方をするのだろう?理解に苦しむ。それにしても仲の悪い兄妹だ。


「ところで…何故ベルナルド王子はここに来たのですか?私達、もう婚約破棄しているんですよね?」


「いや、そんな事はどうでもいい。それより何故お前がユリアの屋敷に住んでいる?それを説明しろ」


ベルナルド王子は私の質問に答えず、セラフィムをじろりと睨みつけた―。

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