第98話 飽きたからだよ
「そ、そう?ありがとう。でも貴方なら安心して護衛を任せそうね?だって本物なんだから」
イケメンのセラフィムにじっと見つめられて思わずドキドキしながら返事をする。
不思議なものだ。ジョンとセラフィムはまるきり顔が一緒なのに、雰囲気が全く違う。ジョンにはこんな気持ちを感じる事は無かったのに、セラフィムが相手だと、深くにもときめきを感じるなんて。
そして私は突然肝心な事を思い出した。
「ねぇ、そう言えば貴方も元・天使だったのよね?何故人間としてここにいるの?」
「ああ、簡単な事だよ。天使でいることが飽きたからだよ」
「え?」
その言葉に耳を疑う。
「今…何て言ったの?」
「だから、飽きたからだってば」
「…ねぇ、天使って…飽きればすぐにやめられるものなの?」
「そうだよ。もう大勢僕の仲間たちが地上に降りてきている。尤も連絡を取り合うようなことはしていないけどね」
「ふ、ふ〜ん…そうなんだ…で、でもどうやって人間になって降りてきたの?」
「うん、それはね。まず背中の羽を切り落として…それでこれから生まれる人間の魂の中に潜り込むのさ」
「…それってやっていい事なの…?」
犯罪なのではないだろうか?
「別に構わないんじゃないかな?ユリアだって前世の魂を持ちながらこの世に生まれてきたんだから…かなり特殊な存在だよね。普通はあまりそんな人はいないのに…。あ、だからユリアには魔法が使えないのかもしれないね」
「そ、そうなの…。でも、これで今日から私はセラフィムという心強い護衛がそばにいるから安心して生活出来るわね」
「安心するのはまだ早いよ。本体を取り戻したオルニアスは強い。何とか傷を追わせることが出来たから…一時的に撤退しているけど、傷が治れば再びユリアを狙って来るかもしれないし…一番いいのは召喚者がユリアの命を狙う事を諦めてくれれば…」
「何だ!それなら簡単な事よ!私にはもう召喚者が誰か分かっているから、明日その人物と会って話をすればいいのよ!」
「え?ユリアには分かっているのかい?」
「ええ。だから…明日からセラフィムもジョンとして学校に通うのよ?いいわね?」
「え…?」
セラフィムが露骨に嫌そうな顔をしたのは言うまでも無かった―。
****
その日の夜―
「それにしてもお父様が不在中で良かったわ…」
ダイニングルームでセラフィムと一緒に食事をしながら私は言った。
「そうだね。その御蔭で10日間この屋敷に隔離されないですんだからね。うん、でもさすがは公爵邸だね。最高の料理だよ」
セラフィムは美味しそうに食事を取りながら言う。そんな様子のセラフィムを見ながら私は思った。
まさかセラフィムが元天使とはとても思えなかった。しかし、彼は指をパチンと鳴らすだけで、あっという間にここにいる使用人達全員を催眠暗示に掛けて以前から私の護衛騎士としてこの城に住んでいるという事を信じ込ませてしまったのだから。
「とりあえず、明日から一緒に学校へ行って貰うけど…いいわよね?」
「あまり気乗りはしないけど…分かったよ」
こうして、セラフィムは嫌々学校へ行くことを承諾してくれた―。
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